「春宵ミステリーツアー殺人事件 《問題編》」 真波馨 【SS(ショートショート)ミステリ】
本作品は、拙作「2分間探偵の冒険」シリーズの世界観です。問題篇は600字以内に収めているので、1分程度で読むことができます。ぜひ「1分で読み、1分で謎を解く」2分間探偵に挑戦してみてください。
『春宵ミステリーツアー』企画の目玉は、春の夜空に咲き誇る1本の桜の木であった。
暗闇の中で白い花弁が雪のように散っている。まるで夢のように儚く、幻のように神秘的な光景。私を含め参加者の誰もが、目前の桜に釘付けになっていた。
そんなものだから、背後から寄りかかってきた巨体に気付かなかったのも無理からぬこと。寸でのところで身をかわすと、巨漢がずじんと地鳴りのような音を立て私のすぐ隣に倒れこんだ。
ビクビクと身体を痙攣させる男にすかさず近寄り、容態を確認する。だが時すでに遅し、男はすぐに動かなくなった。
「毒だ――首筋に針に刺されたような痕がある。それにさっきの痙攣の症状といい、間違いない、彼は毒殺されたのだ」
周囲からざわめきが漏れ始める。私は立ち上がり注意深く辺りを見渡した。ツアー参加者のほとんどは私より前の位置に立っていて、被害者の男より後方にいたのはほんの数人だ。あの中に毒殺犯が潜んでいると睨む。
私の視線は、数メートル離れたところにある巨大な雛人形セットに止まった。職人が腕を振って製作したという人形は本物の人間のようにリアルで、衣裳や小道具まで忠実に再現されている。このセットも、ツアーのために特別に用意されたものだと聞いた。
「なるほど。みなさん、犯人はおそらく凶器を手放し、ある場所に隠したものと推理されます」
私は参加者一同に告げた。
Q:「私」が見当をつけた凶器の在り処とは?