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「ツンデレインコート 1」 みのり ナッシング 【推理】
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とある初春の一日。粘土像の少女が、レインコートを身に纏っていた。
高校2年の谷崎潤は、その出来栄えを満足げに確かめている。両手を前に掲げ、書物に目を落としたその姿。たった一人のために長い時間を捧げた、伝説のままの少女を表現することができたと思う。
だが、今少女が羽織っているレインコートは、ピンク色のド派手なものだ。お世辞にも彼女に相応しいとは言えない。つまり他ならぬ谷崎が、自身の手で、作品を汚したということにもなるわけだ。
しかし、それでいい。いや、そうでなくてはならないのだ。人目を惹くから、という一応の理由はある。あるのだが。谷崎が「理由」というものを考えてみた時、結局最後にはある一人の男の顔が――細いフレームの眼鏡をかけた澄まし顔が、記憶の中で語りかけてくるのだ。
『ツンデレの季節だ』
川端康生という、このレインコートを谷崎に渡した張本人である男は。この光景を目の当たりにした時、一体どんな感情の揺れを見せてくれるのだろうか。
谷崎は、自らが恍惚の表情を浮かべていることに気付かないまま、再び作業に没入した。




