「般若観音寺の犯罪 8」 Kan 【ミステリー】
根来の話はまだ続いていた。そのうち、祐介の考えはまとまり始め、ついに口を開いた。
「ひとつ気になっていることがあります。それは補陀落川で見つかったスニーカーです。あれは香川時子さんのもののようですが、僕が発見した時、左右で紐の結び方が異なっていました。左は普通のリボン結びでしたが、右はかなり変わった結び方でした。ところで、昨日、僕はあのスニーカーの紐が、左右共に普通のリボン結びであったことをよく覚えています。このことはきわめて重要なことだと思います」
「靴紐の結び方? どこで結び方が変わったのかな」
と根来は首を傾げた。
「そこで、根来さんには容疑者の靴紐の結び方を確認してほしいんです」
「わかった」
根来は頷いた。
「それと、根来さんのお話の中で気になったのは、文殊堂についてです。何もなかった、ということでしたが、レジャーシートもありませんでしたか?」
「レジャーシート? いや、そんなものはなかったな……」
「なるほど。でしたら、レジャーシートを外に運び出した人がいなかったか、あとで確認していただけると助かるのですが……」
「分かった」
「それでは、ちょっと調べものをします。一緒に補陀落川の上流まで歩いてみましょう」
「なにかあるのか?」
「ええ。おそらく」
羽黒祐介は般若観音寺会館を出ると、香川時子の発見された補陀落川をさらにさかのぼった。そして、弁天橋にたどり着くと、構わずにさらに坂の上に向かって歩いていった。その先には、弥勒堂があった。小高い丘の上にある弥勒堂を眺めると、その傍が崖になっていて、下に補陀落川が流れていることに気づいた。そこはものすごい急流になっていた。
祐介はその弥勒堂の付近を調べ始めた。安楽椅子探偵である祐介にしては珍しく、地べたに膝をつけて、虫眼鏡などで地面を観察し始めた。
「これは面白いことになっていますね。すみませんが、このあたりの土の足跡を調べてほしいんです」
と祐介はいった。
「これです」
祐介は土の中にいくつか足跡らしきものを見つけて、指差した。そしてこう言った。
「これが物的証拠と言えるでしょう。それでは、般若観音寺会館に戻って、事件の説明をするとしましょう」
*
読者への挑戦
この段階で、犯人特定の手がかりが揃った。私は読者に挑戦する。
1.角田明善殺害の犯人は誰か? また、その方法は?
2.香川時子殺害の犯人は誰か? また、その方法は?
3.秘仏は今どこにあるのか?




