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春麗のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 春麗のミステリーツアー参加者一同
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「春麗のミステリーツアーⅢ≪問題篇≫」 若松ユウ 【ミステリー×ヒューマンドラマ】

 春の日の、うららにさして行く船は、棹のしづくも花ぞちりける。

 源氏物語の「胡蝶」には、そんな長閑な歌が詠まれている。

 滝廉太郎も、歌曲集『四季』の第一曲「花」で、櫂を漕いで隅田川を行き交う船人たちの様子を、この歌になぞらえている。

 優雅な時代があったものだと思う。

 

 さて。

 ノスタルジアに浸るのは、それくらいにして、現状を説明しよう。


 僕とうららさん、それから文学同好会の部員たちは、ゆったりとした時間の流れる隅田川沿い、ではなく、学園ドラマなどでお馴染みの荒川沿いの住宅街に建つ、古風な一軒家に集まっている。

 千住新橋に程近く、最寄り駅は東武伊勢崎線の小菅駅だといえば、昭和の風情が色濃く漂う庶民的なエリアだとお分かりいただけるだろう。東京都民なら。


「上と下、代わったろか、ハルくん?」

「だ、大丈夫です」

「ホンマか? やっぱり、薄着の季節になる前に、痩せなアカンかなぁ……」


 そして、今の僕は、二階にある四畳半の和室で珪藻土の壁に片手をつき、うららさんを肩車している。

 一応、平気なフリをしているが、けっこう無理をしている。ひょっとしたら、うららさんの体重は、僕とそれほど変わらないのかもしれない。下手すると、僕より重いのかも。


「それより、何か見つかりましたか?」

「ちょっと待って……あっ!」

「第三メッセージは、ありましたか?」

「うん。なんか貼り紙に書いてあるわ。ライトライトっと」


 うららさんは、ジーンズのポケットからスマホを出し、ライトで天井裏を照らす。

 そう。僕たちは「春麗のミステリーツアー」と称した謎解きゲームに挑戦しているのである。

 出題者は先輩たちで、解答者は一回生。一種のオリエンテーションだと思っていただければ、間違いない。


 第一メッセージは、鯉のぼりの竿に、矢文か凶の御籤のように結ばれていた。第二メッセージは、季節外れに飾られたままの雛人形の、右大臣の下に畳んで置かれていた。

 そして、第二メッセージをヒントにこの部屋へ移動し、床の間の上の一枚だけ外れた天井板が怪しいと睨み、こうして探っているというわけ。


「『よくぞ見破った、褒めてつかわすぞ、部長』やって」

「……それだけですか?」

「せやね。……あっ、待って! もう一行、ちぃちゃい字で書いてあるわ。えーっと『犯人は、トガナクテシス、副部長』やって」

「咎無くて死す、ですかね? 他に、何か書いてますか?」

「いや、そんだけやわ。降ろしてえぇよ」


 ふぅ。やっと、肩の荷が下りた。物理的な意味も込めて。

 

「いろは歌のことやろか?」

「おそらくは。でも、忠臣蔵にゆかりのある先輩なんて、居ましたっけ?」

「どうやろう? ちょっと調べてみるわ」


 知らない人のために補足しておくと、いろは歌を七文字ごとに区切って最後の一文字を繋げると「とがなくてしす」となり、そこから、四十七文字を四十七士に見立てた『仮名手本忠臣蔵』を連想した次第。

 うららさんは、先ほどライトに使ったスマホで、赤穂浪士の面々が書き連ねてある表をスクロールする。そのあいだに、僕は蛇が描かれた七宝焼きの壺を、元あった位置に戻しておく。


「赤埴、潮田、大石、大高、岡嶋、岡野、奥田、……エウレカ!」

「気に入ってますね、その決め台詞。で、誰だったんですか、三毛猫ポランを攫った犯人は?」

「フッフッフ。まぁ、ついてきたまえ、ワトソン桜井くん」

「はいはい、ホームズ桃山さん」


 そうして僕は、うららさんのあとについて行き、うららさんが次々にスパンッと開けっ放しにしていく襖や障子を閉めつつ、一階へと駆け降りた。

 ついでに、いまさらながらお伝えしておくと、僕のフルネームは桜井春樹で、うららさんは桃山麗という。

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