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春麗のミステリーツアー【アンソロジー企画】  作者: 春麗のミステリーツアー参加者一同
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「~Children of the tear(後編)~」 IDEECHI51 【ヒューマンドラマ】

 あれから男が彼女の働くコンビニに現れることはなかった。暫く仕事を休んだ彼女だったが、その間やっていたことがあった。それは小説の執筆だった。タブレットに思いの丈をぶつけた。彼女が書いたのは不倫愛で女を捨てた男が酷い形で呪い殺される話に、コンビニ店員へ不満を垂れる客が店を出た直後に通り魔に殺される話であった。



 ただのストレス解消だ。しかし我ながら力作だ。もっと完璧な仕上がりにして、世にだしてみよう。彼女はそっと微笑んだ。




 桜咲く春、4月1日のことだ。



「お次の方どうぞ!」



 レジで並んでいる客を呼んだ。サークルでよく顔を合わせる高木玲だった。



「邦子ちゃん元気がいいね! またこの店に来ようかな」

「あはは、それだけが取り柄だからね」

「笑顔がいいというか、何というかね。今日から邦子ちゃんをニーコちゃんって呼び方でどう?」

「微妙だなぁ~」

「ウソウソ、今日はエイプリルフールだからね。嘘にしとくよ」

「まぁ、でも悪くもないかも? お代は1026円になります」

「万札からでいい?」

「金持ちだなぁ」

「うん、こないだ3軒目の別荘買ったしね」

「みえみえ、あんま嘘ついていると閻魔大王に舌ちょんぎられるよ?」

「ははは、気をつけなきゃ。また動画の収録でね!」

「8974円です! ありがとうございました! またお越し下さい」



 桜の花が次々と散っていくようにレジの客も次々と流れてきた。忙しい1日は今日もあっという間に終わる。今日は夜勤がなく、お家でゆっくりできそうだ。



 そう思った矢先、珍しく悟が話しかけてきた。煙草に付き合えと言う。



 まぁ、煙草に付き合うぐらいならいいだろうと思った。玲に命名されたネタもあることだし、話してみたくもあった。


挿絵(By みてみん)


 悟が話したことは何とも奇妙なことだった。



「最近さ、可笑しいと思う事があってさ、俺、ダテッチの影響で映画みるようになったのね。で、付き合いで合コンに参加したのよ。俺彼女いるし、断わってはいたのだけど、どうしても来てくれって頼まれたものだから。そしたらその女が映画観たいって言うものだから、成り行きで泊めたのだけど……俺はダテッチのお家に避難したよ。それでその、ムラちゃんの話を思いだしたの」



 奇妙な話だった。だけど彼女は微笑んで見せた。



「タイムスリップして、過去のウチと会ったのかな?」

「そう、そんなこと思ったよ。まさかだと思うけど……」

「まぁ、でも、きっとそのコは救われたんじゃないかな」

「そうかよ、ははっ、そうだといいな」

「連絡先とか交換したの?」

「してねぇよ。言っただろう? 俺には彼女がいるからよ。もう会うこともないだろうよ」

「そう、ふふっ、面白い話だね」

「ネタにしたきゃ、ネタにしていいぞ? 事実は小説よりも奇だからな」

「考えとく。でもウチにはウチにしか書けない小説があってさ、悟には悟にしか書けない小説がある。アマチュアでも作家ならそれを心得てないと」

「お! 先生はさすがですな!」

「そういや、今日ね、玲ちゃんがお店にきたよ。無印のハンカチ買っていたよ」

「え? マジでか?」

「うん、それで笑顔良いからニーコって命名して貰った」

「何だ? それ? お前エイプリルフールだからって嘘ついてないよな?」

「ウチは嘘ついてないよ? 悟はどうなの? さっきの話は嘘だったの?」



 悟は煙草を吹かし、ちょっと考えた仕草をみせて答える。



「ノー! ほぼ100%本当の話だ」



 そこでみせた少年のような笑顔はいつしかみたそれそのものだった――




 やがて来るそれぞれの交差点を迷いの中で人は立ち止まるけど、それでもまた歩きだすのだろう。それでもどんな時も自分らしく生きていけたらそれでいいのだ。ベランダの薄氷はとっくに溶けてなくなった。今ではもう桜の花びらが少しずつ落ちてくる。



 人は泣いた数だけ笑っていい権利がある。彼女はそう信じた。



 ああ、夢から覚めた。今以上私は私を愛している。



 彼女の涙が笑顔に変わる春がやってきた――


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