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土工の子  作者: 田村弥太郎
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土工の子


土工の子


 幼子が中森の顔をぺたぺたと叩く…。

「みわちゃん、おはようございます」

 幼児は「キャハハ」と嬉しそうに笑った。

 昨夜は、昭が買ったばかりの中古のスカイラインに乗ってやって来た。

「中ちゃん、出掛けようぜ」

 箱スカのGT止まりだが、嬉しそうだった。山手にでも行ってみようと、茶畑沿いを走っていたら、右前のフェンダーがめくれ上がり「おおー」と言ったと同時に飛んでいった。

 二人は呆気に取られ、次に笑い出し、慌てて車を止めて、フェンダーを茶畑から拾いだして帰って来た。

 昭は早速、修理に行ったはずだ。

 中森は作業ズボンを穿き、上は裸のまま外に出て、池の縁石に腰をおろした。

「今日は早いな」

 石山が麦藁帽子をかぶり、二階から下りてきた。

「あー坊と出掛けなかったのか」

 と聞くので、フェンダーの話をすると、大笑いしながら向かいの家に行ってしまった。

 永塚と一夫は、釣りに行く、と言って真新しい自転車に乗って出かけた。

 岩田が部屋から下りて来た。

 今日は、お孝さんの娘に会う事になっていた。小林の件は一段落つき、マンションに戻り通いで人夫仕事を続けるつもりだった。そこで店を開けておくのに人を雇うのだ。

 銀行に行った日、中森に不動産屋をしていることを話した。中森は、お孝さんの娘に話してみたらと言ったのだ。

「今日は、お孝さんの娘さんと会って来ますよ」

 岩田は池の縁石に座る中森に声を掛けた。中森は、タバコを手に気持ち良さそうに陽を浴びていた。すでに、初夏から夏になっていた。

 中森は顔を向け、小さく頷いただけだった。

「ところで、紙袋に一緒に入っていたのは、どうしたのですか」

「あれは、大工さんが現場に埋めました」

「そうですか。ありがとうございます」

(若いが面白い男だ)と岩田は思った。

 あれで岩田と一夫の紙袋のやり取りを見ていたのだ。そして、永塚と社長の間で、うまく事を治めていた。

 お孝さんの娘さんの名は沙知と言い、二十歳だそうだ。今は池袋に通い事務員をしていた。

 店を開けておくのが第一だから、客に挨拶ができれば良い。物件の説明もすぐに覚えられるだろう。二週間後から勤めることになった。最初は、岩田が手順を教えるので、日曜日にも出てもらう。

 沙知は中学生頃まで、よく飯場に顔をだし、古参のほとんどを知っていた。それもあり、岩田が飯場に住み込んでいるのを楽しそうに聞いていた。

 小林の仕事は続いていた。ただ、地所のオーダーは途絶えていた。

 岩田が行ってしまうと、松夫の子供たちが外に出て来た。幼子を抱き抱え、いっちゃんも出て来た。子供たちは、よそ行きの服を着ていた。家族で出掛けるのはめずらしかった。

(そうだ、匕首はどうしよう)

 岩田には埋めたと言ったが、まだ土のう袋の中に入っていた。

 事務所から、奥ちゃんが出てきた。中森の方に歩いて来る。

「おやじが呼んでるよ」

「え~」

 中森は、立ち上がり背伸びをした。

 中森は口ずさんだ。

(あの子は~、土工の子~)

もうすぐ夏休みがやってくる。


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