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土工の子  作者: 田村弥太郎
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拾い物


拾い物


高沼の家に着くと玄関先の明かりが点いていた。中森は、紙袋を手にしていた。

「おう中森、どうした」

高沼は浴衣の前を開け、座椅子にもたれ掛かり、水割りを飲んでいた。

 昭も横になって、テレビを見ながらビールを飲んでいる。

「これ」

高沼の前に紙袋を出し、口を開けた。

「おい、どうしたんだ?」

 高沼が体を起こした。

「どうしたの?」

昭も起き上がり、覗き込んだ。

中森は、中身を取り出し並べた。

「中ちゃん、どうしたの?」

ママさんも声を上げた。中森は永塚の話を伝えた。

 話を聞いて、高沼も昭も考え込んだ。

「そうだよな。うちまで来るよな」

 昭が言うと、高沼も腕組みをして「んー」と、唸る。

相手は、寿司屋で永塚の事を聞き出すだろう。どこに住んでいるのか分からないが、小さな駅前のタクシーに、聞き込みぐらいはする。日曜日の夜、父子の客なら記憶に残る。飯場を突き止めるのは、容易い。

 しかし、住人たちに見当をつけたとしても、持ち去った確かな証拠にはならないはずだし、永塚を特定するのも難しいだろう。高沼の問題は、相手がどの程度の連中かだけだった。

 一現場の工事代金に余りある札束が目の前にあった。高沼の腹は据わっている。

 高沼は六束を中森に渡した。

「これは永塚と中森の取り分、これは現場に埋めてこい」

 匕首を指して、高沼が言った。口元が笑っていた。

「あー坊、明日、銀行に」

 昭が頷いた。

「永塚には、何かあったら連絡しろって言ってくれ」

中森が飯場に帰ると、車のドアが閉まる音を聞いて、永塚が二階から下りて来た。

中森は束を四つ、紙袋のまま永塚に渡した。永塚には、ちょうどいい金額かも知れない。大きすぎても怖じけづくし、使い道が分からず困るだけだ。

「残りは社長。匕首は明日、現場に埋めてくるよ。何かあったら、社長が連絡しろって」

 中森が抜いた分は、口にしなかった。

「わかった」

永塚は、高沼がけつを持つことになり、気が楽になったようだ。

「悪かったね」

永塚は紙袋を持って、二階に上がった。

 中森は、二束と匕首を土のう袋に入れ、電話機の載るスチール机の引き出しにほうり込み鍵を掛けた。

朝、いつものように昭は高沼を乗せて事務所にやって来たが、住人たちの乗るマイクロバスの運転席に座る松夫に、腕を交差した。今日は現場に行かない、ということだ。

 下水道工事は、道路下の地中に、コンクリート製のヒューム管を敷設していく。深さは数メートルから十メートル近く掘り下げる。

 現場は区内が多く、今は米軍宿舎の跡地を、住宅団地に開発していた。区内に残る最後の広大な敷地だった。数ヶ所で重機が掘削していた。下水管を敷設し埋め戻す。匕首は管の下に放り込み、土を被せれば永遠に見付かる事はない。

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