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インプローヴ・バイオノイド  作者:
第一章 バイオノイド
3/7

第3話 まだ起こさないであげて

とある登場人物視点です。なんとなくで大丈夫です。


 古より「バイオノイド」という、意思をもつ機械を指す言葉がある。

この言葉はひとつの名称にしかすぎず、国によって呼び方は様々だ。我が国においてバイオノイドは、より人間に近い存在であり、倫理的思考を持っている人型の機械を指す。

 機械といえば人間が入力した命令に従って動くものであり、機械が独自になにが自分にとって徳か、利益があるか、善か悪かは思考することはない。しかし、人工知能の発展により一部の機械にもその権利が与えられた。


 倫理的思考は絶対的に人間の安全を尊重されなければ成立しないものとする。それに伴うジレンマがあれば、人間に判断を委ねることが規定だ。

 では、そもそも機械にとっての倫理はどこから生まれるのか。答えは、人間の独自の脳内にある。


「何を考えているのだ……シヴよ」


 倫理の基礎となる思考は、一体の人間から介される。

 コールドスリープ状態の幼い少女が『母なる物(シヴ)』と呼ばれ、国家機密として厳重に管理されている。シヴはすべてのバイオノイドからシステムを介してアクセスされる。機械からしてみれば親近感のある存在だ。しかし、彼女の実態を知るものは手で数えるほどしか存在しない。一般的な認識としてはバイオノイドの倫理的思考を支えているシステムがある、という程度であろう。シヴは概念であるといってもいい。

 私、レヴォーグ・オッペンは代々この少女を守護・管理する家系に生まれ育った。

 私の使命は、母なるシヴを守ることただ一つ。

 シヴとはシステムを介して会話することができる。といっても、彼女からの一方的な発言を、私は古代書を片手に解読するだけであるが。最近、シヴから一つの願いが言い渡された。



『この子を作って』



 訳すとこんな感じだろう。本来は数字の羅列であるが……。

 送られてきたデータを解析してみるとシヴがバイオノイド開発部からのデータが引用し作成した、彼女の思い描く設計図が記されていた。機械と脳をほぼ同期しているからこそ入手できたその設計は、開発局室長の私の目を見開かせた。

 作りたい。技師としての血が騒いだ。無駄のない設計に、突拍子もないほど高性能の部品たち。物理学から生理学など様々な分野の集大成がまとめられているようで全身に鳥肌がたった。私は早急に完成させたかった。しかし、シヴが意思を伝えてくること、この設計図の存在は公にするわけにはいかない。開発はあくまでも内密に、秘密裏に実行された。もちろん私一人で行うしかない。

 設計図の頭部を作成するまでそうかからなかったが、シヴの希望する部品を手に入れるまでに時間がかかった。また、時間がかかりすぎるとシヴは新しく開発されたものと差し替えた設計図を、部品が途中で変更しても問題のないように調節して送ってくる。開発者魂をくすぐられながら、私は寝る間を惜しんで作り続けた。


「5年……か」


 頭部が完成してから足の指先まで完成するころには、5年の月日が経過していた。シヴからの通信は、彼女が完成したときからなくなってしまった。最後のお願いは『まだ起こさないであげて』であった。

 モニターの奥にある一室にそれは眠っている。そこはガラス張りになっているので、モニター越しでなくてもそれを観察することはできる。しかし、暗い室内では光がいたずらをするのだ。ガラスには白髪混じりの髪の量だけが多く、うねっている疲れきった男が写っている。よれた白衣を見にまとって、表情も疲労がにじみ出ていた。なにより見たくないのが、口の横に主張する二本の線だ。お前はもう若くないんだ、とガラス越しに言われているようで目をそむけた。


「誰なんだ……貴様は」


 私のシヴのために差し出した5年間は、私の最盛期ともよべるほど充実していた。それを過ぎた今、わたしはただモニター越しに、養水のなかで眠りにつく彼女を眺めることしかできなかった。

 シヴはまた、機械どもに倫理的思考を与えるだけの概念にもどってしまった。それが悔しくてたまらない。モニターに設置されたボタンを一度おせば、こんな眠っているだけの機械は破壊できる。そうすれば、またシヴは私に語りかけてくれるだろうか。


「シヴ……母なるシヴよ、なにか私にお願いしておくれ……」


 今思い出すだけでも背筋がゾクゾクする。あのときの衝撃と快感をもう一度味わいたい。きっとシヴは怒るだろう、作ったものを壊されてしまい、私を、私を怒ってくれるだろう……。ああ、なんと良い響きだ。怒ってくれ、いけない私を怒ってくれ、シヴ……。

 養水を抜くための開閉ボタンに手がゆっくりと近づいていく。しかし、その手はそれ以上進めることができなかった。後頭部に硬い金属の感覚がする。嫌な予感しかしなかった。


「レヴォーグ・オッペンだな」


 この声に聞き覚えはなかった。男の低い声が、耳元から聞こえる。私のおもうことは一つだ、何故この場所がバレたのか。此処は国家機密区域であり、この国の大臣といえど知るものはいないというのに。


「……何故、ここが分かった」

「教える義理はない。 そのバイオノイドは貴様が開発したものだな」


 私の手はボタン前で止まっていた。こいつらの目的は、このバイオノイドだろう。だとすればどうして知っている。この強固なネットワークの壁を打ち破るほどのハッカーが、私のしらないところにいる、ということなのか。制作に集中しすぎてネットワークの強化を怠った自分が腹立たしい。

 シヴは声をかけてくれない、謎のバイオノイドはいる、そして命の危機に晒せられ、私は不機嫌極まりない。

 

「フンッ、苛々してたまらないっ 忌々しい!!

 ……欲しいならくれてやる! 私は、こんなおもちゃいらないんだよ」


 開閉のボタンに手を伸ばすと、一気にパスワードを入力して養水の排水口を開放した。私の頭に銃をつきつけてきた奴は慌ててモニターのガラスをぶち破り、その奥に眠っていたバイオノイドに駆け寄った。その格好といえば全身黒ずくめで、顔まで布でおおっているため外見を確認することはできない。ただ、全身を黒い布で包んでいても鍛えあげられた肉体は隠しようがない。ガラスを破って着地してもバランスを崩さない体幹は只者ではないことを教えてくれる。


「ちょっと、何てことしてくれてんの! クソジジイ!」 


 今度は甲高い女の声が聞こえた。それと同じく、ガツンと鈍い音が、頭の中をこだました。ああ、殴られたのかと理解したときには私は意識を手放すしかほかなかった。







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