異動
万物には神が宿っている。俗に言う八百万。
物、生物はその限りでは無く、世界、概念そのものにも神と呼ばれる者は存在している。
俺、烏丸獅子王神もその神の1人である。
第123987号世界惑星、地球、その日本支部、担当管轄地区は日本の首都、東京だ。
その東京を管理する神様って訳である。
管理と言っても、生命体の生道に不公平が出ないよう運気を操作したり、適当に雨降らしたり日光出してやったりして天気の操作をするくらいだ。
しかし、俺の管轄内である東京、俺の我が子みたいな土地であるから親バカみたいになってしまうかもしれないが、実に優秀である。
この世は実力至上主義だと掲げ、勉学にも勤労にも手を抜いてるように見えない。それに、今は太陽や雨なんか降らせなくても食物を育てられるらしいので、俺の仕事は無いようなもんだ。てか無い。
まあ、そこら辺も優秀なのだが、俺は更に優秀なところを知っている。
それは、圧倒的娯楽。
アニメ、ゲーム、マンガ、小説、あとは…………まあ色々ある。
人生というものは元々修行の場だと言われている。生を持って産まれたものは死ぬまで現世で善行などを行って修行する。それで極楽浄土を目指せるというもの。だから、普通なら修行なんだからもっと苦痛を伴うもののはずなんだ。
だが、現代の人間、特に日本、こいつらはどうだろう。その辛い修行の場を楽しい場にしようと娯楽というものを作りやがった。
まったく、俺の子供達は最高だ。そして、同時に罪深い…………。
「だって、俺をこんなニート野郎にしちまうんだもん。人間スゲー天罰もんだよコレ」
俺は寝転がりながら、適当に自分の管轄内に天罰を冗談半分で落としてみた。
なんかインスタ取ろうと騒いでる若者の1人に下って、飲み物ぶちまけてたけど、まあいい。
神という存在は次元を凌駕した場所にある、神域と呼ばれた場所に詰めている。
その神域の1室、俺のプライベートルームはなんともまあ染まり切っていた。
管轄内の神の使いである、巫女に買いに行かせた、デスクットップパソコンが地面に直に鎮座されている。
俺は寝転がりながら、パソコンでFPSというジャンルのゲームに興じていた。
「おい、ふざけんな! まだ装備取ってねえよ! なんだ? お前らは裸の人間ヘッドショットするんか?」
しょーもな、そう思って俺はパソコンのマウスを放り投げて、これまた巫女に買わせに行った漫画本を持ち上げ寝転がりながら読む。
すると、コンコン、と。
誰かが俺のプライベートルームの扉をノックする音が聴こえてきた。
「はーい、誰ですか?」
漫画を読むのに忙しい俺は目線を外さずに返事をした。
「烏丸獅子王様、私です、舞之宮でございます」
「ああ、マイね。鍵開いてるから、入って、どうぞ」
「失礼します」
そう丁寧な口調で返事をした女性、舞乃宮。通称マイ。
神域に居るという事はマイも勿論神様である。
第123987号世界惑星、地球、日本支部と同じ部で、管轄地区は名古屋の神である。
「相変わらず自堕落な生活を送っておられますね、烏丸師子王様は」
「なんの用?」
俺の美少女ポスターだらけの部屋を呆れ顔で見回しながら溜息を交えて言う、マイは、いつも通り日本の服、和服? を着ていた。
ドレスにも見えなくもないそれに、簪で髪を纏めたその女性は、同じ管轄という事もあり、仲良くさせてもらってる。というか、ニートでここから出ない俺にとっての唯一の知り合いでもある。
「ミダエル様がお呼びです」
「ミダエル様が?」
ミダエル様とは、唯一神という位置付けされた最高位の神を纏める神である。
そんな偉大な神様が俺みたいなへんぴな管轄の神になんの用だろうか。
「大至急とのことです。神座の間へお急ぎください」
「えー? 漫画いいところなんだけど、読み終わってからじゃダメ?」
「ダメです。早く行ってください」
「へーへー、ったく、めんどくせえな」
「あー! 今なんて仰いました!? ミダエル様の命を面倒と仰いました!?」
ああ、コイツ、神のくせに神を崇めているんだよな。
「なんも言ってないよ。じゃあ、行ってくるけど、くれぐれも…………」
「分かっております、烏丸獅子王様の管轄に触れたりしません」
「じゃなくて」
俺は読み途中の漫画を見開きで地面に置いてあるのを指して、
「勝手にそれのページ捲んなよ。いいところなんだから」
「ッ!? 捲りますか! いいから行ってください!」
俺はマイの大声に耳を抑えながら自分の部屋を出た。
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俺は神域の廊下を渡り、マイの言った神座の間へと着いた。
馬鹿でかいその両開きの扉を力強く叩いてノックした。
「あの! 第123987号世界惑星、地球、日本支部管轄東京の神、烏丸獅子丸ですけど!」
「よい、入れ」
中からくぐもった声で青年のような声が聴こえてきた。
途端に俺の目の前にある神座の間の扉は独りでに開いた。
否、ミダエルの使いの天使だろうか、その背中に羽を生やした2名の天使が右の扉と左の扉をそれぞれ押して内側から開いた。
こんな俺の管轄の一般人間と大差ない体格のこいつらのどこにこの馬鹿でかい扉を開ける力が秘められているのかと疑問に思いながら、扉を開けて俺に向けて頭を垂らす2人の天使を一瞥しつつ神座の間へと足を踏み入れた。
神座の間の中は、何とも神々しい内装をしていた。
地面には赤い絨毯が一直線に敷かれ、天井は吹き抜けで神々しい明かりが差し込んでいる。
入って目の前にはそんな座高高いやついねえよと言わんばかりに背もたれが高い椅子、それが神座というのだろう。それにちょこんと白装束をふわりと浮かばせるように着込んだ青年、唯一神、ミダエル様が鎮座していた。
その神座の背後にはこれまたでかいミダエル様の肖像画が飾られていた。
この人がミダエル様か…………。
実際俺は、この神座の間に足を踏み入れることはおろか、ミダエル様と相対すること自体が初めてだ。
だから、そのあまりにもの大物感のないオーラに俺は驚嘆してしまった。
こんな俺と歳が近そうな見た目している坊ちゃんが神々を纏める神様とは笑止千万もいいところだな。
因みに俺は、1603才、その1億倍は歳を取っているということを聞いたことはあるが、
「ふん、烏丸神、そんなに恐縮せずともよい、近こう寄れ」
「え、あ、はい」
どうやらミダエル様は俺があまりにもの大物に会って緊張してると勘違いなさっているらしい。
まあ、案外大したことないんすねなどとは口が裂けても言えないので、黙って近くまで歩いていく。
神座は意外と近くに寄ってみると高く、俺が近くに立つと、見上げる形になってしまう。
だが、その体躯と高い神座のせいで足をプラプラさせる形になってしまい、何とも子供らしくて可愛らしいと思ってしまった。
まあ、そんなこと言ったら殺されるんだろうが。
「跪け」
「は」
威圧的な目で高圧的に俺に跪けと命令されると、俺は特にそれに異を唱えることなく、黙ってその場に片膝で跪いて頭を垂れた。
「して、俺になんのご用でしょうか」
「うむ」
俺が訊くと、ミダエル様は頷いたような事を言って間を作った。
一体俺みたいなニートに最高位の神様が何の用なのか、全く気になる。
まさか、異動なんてことはあるのか? 俺があまりにも優秀過ぎて。
…………いや、でも俺は東京の神だ。あの土地だからいいのだ。ありがたい申し出だが、断ろう。
「お前、異動な」
「お断りします」




