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第二夜 アレキサンドライト

母と二人で過ごしながらも孤独を感じていたが、母親以外信じられる人間なんて一人もいなかった。

国王の妾だった母親がある日、ボクを身籠りひっそりと出産した。

だから、ボクが国王の血を引いていると言うことは誰も知らない事実だった。

母親はボクを守る、ただそれだけのために自分の睡眠時間を削って働いたり、ほとんど食事も取らなかったりと、無謀な生活を送り続けた結果、去年の夏にボクを残して亡くなってしまった。

たった一人の身内を無くしてしまったボクは誰にも頼る事もできず一人で生きて行く事を余儀なくさせられた。

誰を恨む事も無く…誰を恨んだらいいのかも分からないまま、今日まで生きてしまった。

ボクは一体これからどうしたらいいのだろう?

ボクは自分の瞳と同じ薄い緑色の石の着いたネックレスを握りしめた。


母親が最後に残してくれた物…。

母親が父からもらったたった1つの宝石。

母親はそれでもあの父親を愛していたのだろう。

だから、こんなにも大切にいつもコレを持っていた。


「アレキン、おーい、アレキン!」


ついつい物思いに耽ってしまい、彼女と一緒に買い物来てる事忘れてた。


「また考え事かー?あんたって放っておくとすぐそうやって自分の世界に入り込むからな、ほらさっさと買い物して家に帰るよ」


ボクがかろうじて、『心』と言うものを無くさずにいられたのは、幼なじみの彼女の存在が大きい。

ガサツだし、お節介だし、自己中心的だし、だけど……彼女は他の誰よりも優しかった。

優しいと言う感情の受け取り方と言うのは難しい物で、人によっては与えられたその優しさが残酷に感じてしまう事もある。

ボクも初めは彼女の優しさが逆に鬱陶しかった。

きっとただの同情でボクに接しているのだろう。

人は自分より不幸な人を見ると内心嬉しくなり、その人物に優しくする事で自分と言う存在意義を見出だせる、などと思っていた。


だが…。


『は?同情?そんな風に思ってんの?甘ったれないで。私がただあんたと一緒にいたいから…あんたの側にいるの』


そんな風に言われて、頭を鈍器で殴られたような感覚に陥った。

今まで自分が思っていた事が何て浅はかだったのだろう。

結局、誰かのせいにして自分が傷付きたく無かっただけだろう。

そんな彼女のおかげでボクは『心』を失わず生きてこられた。




「ただいまー」

市場でおよそ一週間ほどの食料品を買い込み、両手に荷物をぶら下げたままボクは部屋に入った。

手の平にくっきりと荷物の後がついてる。


「あら、またこの子ったらあなたに全部持たせて…、ごめんなさいね」


彼女にそっくりの母親が申し訳無さそうに謝った。


「いえ、いいんです。ボクが持ちたいので…」


「アレキくんっていつも自分の気持ち言わないけど、それで平気なの?」


「……」


自分の気持ち…?

別に自分の気持ち隠している訳では無いし、これで不自由などしていない。

自分の気持ちを隠している事があるのならば…。


「アレキンは私の言う事を聞くのが幸せなんだよねっ?」


ボクの横にスっと入ってきて、大きな瞳をパチパチさせる。


イヤ、決してそんな事は無いのだが…。

全て間違っているとは言えないのが悔しいところだ…。


「アレキン、外で夕食に使う野草取ってこよう」


カゴを片手にさっと向きを変えると、膝が少し見える丈の白いスカートがふわりと揺れた。


「今日のサラダに入れるのはどの野草がいいかなー?アレキンはどれが好きかなー?」


「ボクは…何でもいいよ」


「またそうやって…本当、自分の意見無いの?」


「…」


「また黙るー」


自分の意見が無い訳ではないし、譲れない自分の想いもある。

目の前でぷスッーと頬を膨らませている彼女が可愛くて仕方無かった。


ボクは…。

彼女の事を愛している。



「ねぇ、アレキンー、何で黙ってるの?」


彼女がボクの目を覗き込む。

彼女の深い茶色の瞳が頼りなさそうなボクを映す。

あー、ボクは今何を言おうとしている?

ボクは彼女に何を伝えようとしている?


「ぼ、ボクは…キミを…」


夕焼けがボク達を包み込む。

オレンジ色の明りと街灯の明りが重なりボクの顔を照らす。


瞬間。


全ての思考が消える…。

ボクと言う概念が消え去って行くのを感じる。

ボクは…一体…。



目を開けると、そこにいた小柄な女が大きな瞳をこれ以上無いぐらいに広げた。


「アレキンの瞳の色…ああ、アレキン、あんた、また…」


女は訳の分からない言葉を発していたが、態度を見るからにして、オレの事を知っている用だ。

そして、オレも彼女を知っている。


彼女はオレにとって、とても大切な…。


「アレキンがそんな風に茶色に近い赤色になると…面倒なのになーとりあえず、家に入ろうか?」


オレの頬に触れた彼女の手を取ると、彼女はビクッと震えた。


「ちょっと待て、さっきあいつがお前に何か言おうとしてた言葉聞きたくねーのか?」


「あなたにアレキンの気持ちが分かるの?」


「当たり前だろう?コイツはオレだぜ」


オレはくいっと女の顎を持ち上げた。


ガサツで色気なんて全く無いこの女の事を…。コイツもオレも…。


オレが打ち明けるのは簡単だが、それはやっぱりルール違反の気がする。


「…アレキン?」


震える瞳が怯えていた。


「やっぱり止めたー」


「え?」


「まぁ、いつか直接コイツに聞け」


「は?」


「とりあえず」


顎に振れていた手に力を込め、顔を近付け…。


彼女のぎゅっと閉じた瞳の上にキスを落とした。


オレは父親のような愛し方はしない。


この女を幸せにする事が今のオレの生きる意味だと…。


自分の心にそう刻んだ。



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