序章-1 ケモノ兄妹とココア
拙く、読みづらい文章ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
一話の文字数は調整中です。
昨日までのことは覚えている。
特に大きなトラブルもなく、毎日数人の友達と、そこそこ楽しい中学校生活を送っていた。
いたって普通の生活で、それはいつまでも続く───
はずだった。
✳
「.........んぅ」
心地よいリズムに揺られながら、真凛は寝返りをうつ。
電車のようなその揺れは、安心感をもたらしながら、覚醒しかけた意識を再び夢へと誘う。
「......」
真凛は微睡みの中で、昨日のことを回想しようとした。だが、何故か記憶がはっきりとしない。
まるで霧がかかったように不鮮明だった。
(...昨日は...塾から帰って...宿題は明日にしようと思って、すぐ部屋で寝た...はず...)
何かが引っ掛かってすっきりしない。
寝ぼけているからだろうか。
しばらくうとうととして、ふと気付いた。
(......何で揺れてるんだろ...?)
ゆっくりと、未だ醒めない頭が回転を始める。
まさかこの小刻みに長時間続く揺れで地震ということはあるまい。
となると、
(家ごと走行....)
「んなわけないッ!」
「お兄ちゃん、起きたよ」
「えっ?」
飛び起きると、目の前に小学生くらいの少女が立っていた。
......フサフサの、獣のような耳を頭につけて。
「ああ、ありがとう。ミィ。」
少し遠くから声が届き視線を上げると、キッチンの様な所にもう一人少年がいた。
......またもやフサフサの、獣のような耳を頭につけて。
「そろそろ起きる頃だと思ってたんだ。.......ココア飲む?」
その言葉が自分に向けられていることに少し遅れて気付き、戸惑いつつも頷く。
お兄ちゃんと呼ばれた少年は、その言葉通り、既に準備していたらしく、すぐにマグカップにココアを注ぎ始めた。
「ここは.......」
辺りを見回すと、そこは小さな部屋のようで、窓にはカーテンが閉まっている。そして真凛は、自分がソファに寝かされていたことにも気付く。
「はいどうぞ」
「あ、ありがとうございます...」
おずおずとマグカップを両手で受け取り、ココアを啜ると、次第に身体全体に熱がまわっていく。最後にココアを飲んだのはいつだっただろうか。最近はその味を忘れていた。
懐かしい美味しさに少し感動を覚えるが、それよりもまず、さしあたって気になることがひとつ。
「...狐...?」
「...ん、正解かな。僕たちには狐の血が混じってるからね」
自分の耳に触れ、少年は微笑んだ。
血が混じっている...
というとどういうことか。いまいち理解できない。
少年のその耳は狐のようだ。
とはいっても、狐をこの目で見たことはないが。
ちなみにその少年は見た目では真凛より少し年上のようだったが、
(かわいい...)
とどうしても感じてしまう。
たまにケモ耳のカチューシャを付けた人を見るが、それに数倍勝るリアリティと可愛さなのである。
まさか本物なのだろうか。
と、少女が自分をじっと見つめているのに気付く。
「......?」
だがその妹はプイッとそっぽを向いてしまい、何も話そうとしない。
代わりにその兄が、
「あ、ごめんね。この子かなり人見知りだから、初対面だとめったに喋らないんだ。」
と弁明する。
「そ、そうなんですか...」
その妹、確かミィといった子にも、同じ耳がついていた。だがそれは、兄よりも一回り大きい。
そして、
(あ、尻尾もあるんだ)
今さらながら尻尾の存在にも気付く。
やはりそれも、妹の方がやや大きい。
(......んん......!!)
突如、モフモフとしたミィの尻尾に顔をうずめたい衝動に駆られる。
が、初対面の人にそんなことはできないと思い留まった。
案外自分はそういうものが好きらしい。
もちろんいきなり飛び付くほど無礼ではない。決して。
少し落ち着き、ココアを飲み干してほっと息をつき、今のこの状態について、改めて思考する。
まずここは何処なのだろうか。そして目の前の二人。今もなお続く揺れも不可解である。
それについて、気さくに話し掛けてくれる、兄の方に問おうとしたその時。
「おーい、ニィ!そこの眠り姫は起きたんかー!?」
部屋の外から声が飛んできた。
「姫って......えっ私!?」
眠り姫とは何ともロマンチックな響きだが、その声はおじさん臭い。
というより、おじさんに姫と言われるのに戦慄を覚える。
それを見かねて、顔に苦笑を浮かべた、ニィというらしい兄が助け船を出す。
「あはは...まあ大丈夫、不審者ではないから...多分」
「いや多分ってなんですか」
「んん、危険はないよ。彼は僕らのリーダーだから。...挙動不審だけど」
「えっ怖い」
思わず怯えてしまった。
「まあまあ、とりあえず挨拶してきたら?彼、心配してたし」
確かにこんなに手厚い対応をしてくれている二人のリーダーなのだ。
礼は言わなくてはならない。
何故自分はここにいるのかは全くの謎だが。
「そうですね...行ってきます。え、えっと、そこの扉を出て、何処に行けば...」
「えっ?...ああ、ふふっ、出れば分かるよ」
少し驚き、そして納得したように笑ってこたえるニィ。
どういうことだろうか。
さらに怖くなって戸惑う。
だがそこで、
「あの~とりあえずさ」
ニィが申し訳なさそうに言う。
「はい?」
「その手、離してもらってあげていいかな...?ミィが恥ずかしそうなんだ」
「あっはい、すみません」
結局理性で抑えきれなかった、ミィの尻尾を長い間モフモフ触っていた手を離した。
「.........ふんっ」
顔を赤らめてそっぽを向くミィ。
少し嫌われてしまったかもしれないが、まあ致し方ない。
目の前にモフモフの尻尾があったあの状態で、誰が我慢できたというんだ!
✳
しばらくして、真凛は意を決して立ち上がった。
不審者もといリーダーは面倒臭そうだが、部屋の外のことも気になる。とりあえず出るしかなさそうだ。
ゆっくりと歩み寄り、ドアノブに手をかける。
そして、ドアを開け───
真凛は、異世界の第一歩を踏み出した。




