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第1章ー4

「これからどうする。街なり、海水浴なりに一緒に出掛けるかい」

「そうね」

 彼の誘いに、私は考え込んだ。


 正直、エル・デ・オーロの州都ビリャ・シスネロスとはいえ、余り魅力的な街とは言い難い。

 彼と共同して計画して、一緒に後方に下がった機会を活用して、泊まり掛けのデートを果たしたのだが、街に出かけても、文字通り、街中を散歩するだけになりそうだし、かといって、海水浴に出かけて、私の水着姿を彼以外の男性の目にさらすというのも躊躇われる。

 かといって、他の方策があるか、というと、この街では他の方策が無いに等しい。

 それくらい、魅力の乏しい街なのだ。

 もっとも歴史的経緯を考えれば仕方のない話ともいえる。


 ここは、私の祖国スペインにとって、政治犯を流刑に処した土地と言っても過言ではない。

 スペイン内戦の後始末と、第二次世界大戦によって、ここ、旧スペイン領モロッコは、急速にスペイン系の人口が増え、その果てに西サハラ共和国として独立した。

 儲けが余り出ないリン鉱山関連の工業に、大西洋から採れる海産物を基盤とする水産(加工)業くらいしか、主な産業がここにはない。


 かといって、西サハラ共和国で生まれ育った人にしてみれば、祖国ともいえるスペインには、政治的迫害が目に見えているだけに還れない。

 スペイン系の多い中南米に行くにも、そんな渡航費用がそもそも無い、という人ばかりだ。

 貧困にあえぎつつも、ここ西サハラ共和国にしがみつくしかない、といえる。

 そんな貧困にあえぐ国の街に、魅力的な物が溢れている訳が無かった。


 そして、この国では本来の住民であるアラブ=ベルベル系の住民と、主にスペイン内戦後に移住してきたスペイン系の住民との間で、内戦が続いており、それを止めさせ、和平を仲介するために、私達が所属するNATO諸国軍が展開しているのだが、終わりが全く見えない状態が続いている。

 住民数から言えば、スペイン系が圧倒しているのだが、アラブ=ベルベル系は、スペイン系を不当な侵略者、土地を奪う植民者だとして、敵視することを止めず、武装抵抗をあきらめない。


 アラブ=ベルベル系の住民の多くは、民主主義の受け入れすら拒否している。

 それは、民主主義を受け入れれば、多数派を占めるスペイン系が制定する法律により、迫害を受けるに違いない、と思い込んでいるからなのだが、スペイン系の住民の多くがそれを肯定し、報復のために南アフリカと同様、いやそれ以上の人種隔離法を制定、実施すると公言する有様だ。

 そのために、スペインが、西サハラ独立のために組織した暫定政府が、NATO諸国の後見を受けることによって、政権を維持しているという状況が続いている。


 これまでの民族間対立が、国民の間に分断をもたらしている。

 本当に、私は母から聞いただけだが、スペイン内戦中や内戦終結直後のスペインを見るようだ。


 こういった状況から、終わりの見えない戦いに倦んで、西サハラに駐屯しているNATO諸国軍の兵士の間で、酒と賭博と不純異(同)性交遊が流行るという状況になっている。

 まだ、南米の一部に展開している米軍のように、麻薬が流行っていないだけマシという話がある位だ。


 私も、いつかそれに染まってしまっていたようだ。

 いつも見慣れていた、娼婦が男を誘う目くばせをしつつ、彼を誘うことにする。

「ねえ、もっといいことしない。私とゆっくり楽しみましょう」


 彼も、所詮は若い男だ。

 それに私が本気で掛かって、堕ちない男がいたら、お目にかかりたい。


「それが最善だろうね」

 彼は、すぐに私とベッドに入った。


 結局、私と彼は、部屋から出ることは無かった。

 それこそ、夕方までお互い、相手の体を楽しんでしまった。 

 これで、アラナ視点の第1章は終わりです。

 次話から、幕間として、西サハラ共和国の説明、紹介を数話、描きます。


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