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第1章ー3

 私は、あらためて、彼との初対面の時を想い出した。

 彼も思いだしたのだろう。


「それにしても、救援してもらったお礼を言いに言った際に表れたのが、君達だったのには、驚いたね。僕達にとっては、白馬の女騎士だったわけだ。あの時は、本当に驚いた」

「ふふん。感謝しなさい」

 私と彼の馴れ初めは、戦場だった。

 と言うと、私が彼に助けられたかのように思われるだろうが、実は逆だ。

 彼を私が助けたのだ。


 そもそもの発端は、彼が率いていた斥候小隊が、敵のゲリラ部隊の急襲により包囲されたことだった。

 その時、一番近くにいて、航空支援を行える部隊が、私の所属している分遣航空隊だった。


「フランス軍の斥候小隊が、敵のゲリラ隊に包囲され、航空支援を求めている。直ちに出撃せよ」

「分かりました」

 私は、航空隊長の命を受けて、二式戦闘爆撃機「雷電」を操り、4機1編隊の一員として、救援飛行に飛び立った。

 そして、ゲリラに爆撃や銃撃を加え、彼が率いる斥候小隊が包囲から脱出するのを手助けした。

 その数日後、彼は、小隊長として、御礼を言いに、私のいる航空隊を訪ねてきたのだ。


「女性兵のみの分遣隊でしたか」

「何か問題が」

 最初のイメージは、決してよくは無かった。

「いえ、いろいろ大変だろうと思いまして」

「それはもう」


 何しろ、ここは砂漠地帯だ。

 シャワーを浴びるのは贅沢な話、水で濡らしたタオルで、体を拭くのが基本的に精一杯だ。

 自ら軍人に志願したとはいえ、女性にとっては、本当につらい職場環境だ。

 そして、男性兵と一緒に過ごすのは更につらく、女性兵のみで私達の分遣航空隊は編制されていた。

 それなのに、私達が派遣されたのは、西サハラ共和国へ派遣する部隊の志願者が少なく、男性のみでは中々満たせないからだ。


 軍人なら命令一下、どこへでも行くのが、本来と言えば、本来だが、西サハラ共和国勤務を志願する者は条件が悪いこともあり極めて少ない。

 そして、操縦士資格を持つ空軍軍人は、民間機パイロットという有り難い転職先がある。

 西サハラ共和国勤務を命ぜられたら、退役するという男性操縦士は多く、女性の私達まで派遣される事態になったというわけだ。


「先日、救援していただいたフランス軍斥候小隊の隊長、ピエール・ドゼーです。有難うございました」

「アラナ・ハポンです」

「ハポン?日本人の血を引くと言われるあのハポンですか?それでしたら、あなたと私は、遠縁になるかもしれませんね。私も日本人の血を引いていますから」

「そうですか」

 私の気を引くための嘘だろう、とその時の私は、反射的に思った。


「嘘と思われていますね。私の父は、アラン・ダヴー、日系フランス人です」

「えっ、アラン・ダヴー将軍の息子なのですか」

 私は思わず居住まいを正した。

「本当は言いたくないのですが、嘘とあなたに思われたくないので」

 彼は、笑いながら言った。

 それが、彼と私が、直接、顔を合わせた最初の時で、お互いに惹かれあった馴れ初めだった。


 私は彼の笑顔に魅了された。

 そして、彼の言葉によれば、彼は私の全部に惚れ込んだとのことだった。

 お互いの母語の違いもあるせいか(お互い、相手の言葉に片言がどうしても混じるレベル)、意思疎通が微妙になる時もあるのだが、却って、それが私には有り難かった。

 彼が、嘘を吐かない、誠実な人柄だと私には感じ取れたからだ。


 もし、彼がスペイン人だったり、スペイン語を流暢に話せたりしたら、私は、彼の言葉に不信を覚えてしまっただろう。

 それ位、私の体目当てで言い寄ってくる男は多かったのだ。

 だが、彼の片言交じりの誠実な言葉を、私は聞き、私の拙いフランス語に、彼は誠実に耳を傾けてくれ、私は彼との仲を急に深めた。

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