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第1章ー2

「それにしても、何で、僕の事を、君の母親は気に食わないのだろう。手紙に特に理由を書いていた?」

「私にも、よくわからないの。ともかく、アラン・ダヴー将軍の息子は、絶対にダメとしか、書いてない」

 彼の問いかけに、私自身、首を捻りながら、言うしかなかった。


「うーん。よくわからないな。僕の父が、「赤い国際旅団」の一員だった、というのなら、まだしも。僕の父は、「白い国際旅団」の一員で、叙勲もされた身だ。君のお母さんにとっては、味方だろう」

「そうなのよね。母の事は、追々、説得していきましょう。もう、既成事実もできたし」

 彼の言葉に、私は笑いながら言った。

「もしもの時は、責任を取ってくれるわよね?」

「勿論さ。ちゃんと結婚して、認知もするよ」

 彼は笑いながら言い、私も笑い返しつつ、内心でほっとした。


 やはり、彼は誠実だ。

 私の目に間違いは無かった。

 突っ走って、良かった。

 昨日、お互いに親に宛てた手紙の返事の事を話した際に、彼の両親の理解ある返事に対し、自分の母の頭から押さえつけるような返事に、私は頭に来た。

 彼は躊躇ったが、この際、既成事実を、母に私は突きつける気になったのだ。

 幾ら、母が反対していても、私が彼と肉体関係にまで至っていて、更に妊娠していたら、私の結婚を認めざるを得ないだろう。


 古い、と言われようと、やはり、親の反対を押し切って、親が参列しない結婚式を挙げるまでのことは、私はしたくない。

 渋々かもしれないが、一応は、親が参列した結婚式を、私は挙げたいのだ。

 参列しないのと、渋々参列するのと、どう違うのだ、と更に突っ込んで言われそうだが、後々、やはり違うものがある、と私は思う。

 参列しなかったら、後々の修復がより困難になるが、渋々とはいえ、参列したのだから、と後で許せる気になりやすい、と私は思うからだ。

 屁理屈と言えば、屁理屈だ、と自分でも思う。


「それにしても、ダヴーの姓を名乗った方が、通りがいいでしょうに。何で名乗らないの?」

「やはり、周りの扱いが、微妙に変わるからね。それに、父は有名すぎるから」

 これ以上、母の話をしたくなかったので、前にも話したことだが、あらためて、彼にダヴーの姓を名乗らないのか、聞いてみると、彼は、はにかみながら答えた。

「勿体ない気がするな。私も実家の事を、持ち出されるのが嫌いだから、分からなくもないけど」


 本当に、真っ逆様の理由で、お互い実家から遠ざかっているものだ。

 彼の場合は、実家がいい意味での有名人だからなのに対し、私の場合は、実家が悪い意味での有名人だからだ。

 でも、お互いの共通点がある。


「それにしても、アラン・ダヴー将軍を介して、あなたが日本人の血を承けているとは思わなかったわ。私が、ハポン姓を名乗った際に、縁がありますね、と言ったのは、私を口説くためだと思っていた。何しろ、ドゼーの姓を、あなたは名乗ったから」

「君が誤解したみたいだったから、すぐ、その後に理由を明かしたよね」

「まあね。アラン・ダヴー将軍が、日本人の血を承けているのは、有名な話だし」


 アラン・ダヴー将軍の実父は、第一次世界大戦で戦死した日本の海兵隊士官だというのは、周知の噂になっている。

 アラン・ダヴー将軍の髪や肌の色は、確かに白人だが、顔の輪郭等は、明らかに黄色人種、日本人だ。

 そして、第一次世界大戦の際に野戦病院の雑役婦として働いていたアラン・ダヴー将軍の母と、その海兵隊士官は知り合い、関係を持って、アラン・ダヴー将軍は産まれたらしい。

 だが、正妻がその士官にはいたことから、アラン・ダヴー将軍の母は認知を求めなかった、という。

 実際、そういう話が、第一次世界大戦の際には、よくあった。

 


 1960年時点でのアラン・ダヴー将軍に対する評判等は、追って幕間なり、間章で描写します。

 なお、作中に出てくる「白い国際旅団」については、本編で描写しましたが、この世界のフランコ率いるスペイン国民派に味方した(表向きは)国際義勇兵の集団です。

 実際は、本当の義勇兵もいましたが、日本等は義勇兵名目で正規兵を派兵しています。


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