第4章ー1 結婚式
新章の始まりです。
基本的に娘のアラナ視点になり、時が少し流れています。
母、カサンドラ視点の話が一話入りますが、その際は、表記します。
彼、ピエールと婚約し、関係を持ってから考えると、1月余り後、母カサンドラからの手紙が私の手許に届いた。
彼との結婚を許す、とその手紙には書いてあった。
母が許してくれて、本当に私は嬉しかった。
ただ、母の手紙の一節が私の気に掛かった。
彼、ピエールは、アラン・ダヴーの実子ではない筈、とのことだった。
母は、何故、そんなことを書いてきたのだろうか。
「ああ、実子ではないよ。でも、僕にとっては、実の父も同然なんだ」
母からの手紙を受け取った直後、彼に私が尋ねると、彼は認めた。
「えっ、実子だと思っていた」
私は言った。
だって、自分の父は、アラン・ダヴーだ、と彼は私に言っていたではないか。
「僕にとっての実父は、スペイン内戦の時に「白い国際旅団」の一員で、その時に戦死した。だから、僕は実父の事を写真でしか知らない。実父も日系フランス人で、父アランと同様に、サムライ、日本海兵隊士官の息子で、僕から言えば、実の父方祖父の正確な名前は分からない。僕の実の父と母は駆け落ちして結婚した。父方祖母は、父が死んだこともあり、死ぬまで母との結婚を許さず、僕のことは、孫と認めないまま亡くなった。それに対して、アランの母、義理の祖母ジャンヌは、僕を実の孫のように可愛がってくれる。それもあって、僕にとって、アランは実の父同然の存在なんだ」
「そういうことだったのね。でも、一言、言わせて、結果的に、私を騙していたのね」
「ごめん。中々言い辛くて」
私の怒りに、あっさり彼は謝った。
これが惚れた弱みなのだろうか、私は彼の謝罪を見て、すぐに彼を赦してしまった。
「ところで、父がこっそり別便の手紙で知らせてきた。早く結婚するようにとね。母が病気になり、どうも余命が余り無いらしい。母に、結婚式に参列してほしいのなら、早くしろとね」
「えっ」
彼の母という事は、私の母と同世代、まだ40代だろう。
そんな若さで、死病にとりつかれるなんて。
彼の話に、私は、心底、驚く羽目になった。
「急かすような話をして、本当に申し訳ない。婚約して1月程で結婚の話をするなんて、と思われても仕方ないと思う。でも、僕にとっては、大事な母なんだ。できる限り急いで手配して、結婚してくれないか」
「いいわ。私の母の気が変わらない内に、結婚しましょう。その代り、私が予備役編入願いを出して、家に入るのを認めてよね」
「勿論、構わないよ。むしろ、その方が安心だ」
彼と私は会話した。
これから後も、戦場で彼のために戦いたい、という想いが無いわけではない。
だが、結婚する以上、少なくとも戦場に出るのは止めるのが相当だろう。
それに止むを得ないこととはいえ、私は戦場で人を殺し過ぎた。
多分、私が殺した人間は、100人をとうに越えている筈だ。
二式戦闘爆撃機「雷電」を操り、敵兵に対して、爆弾を投下し、機関砲弾を浴びせてきた私が、大量殺人者なのは間違いない。
少なくとも、彼、ピエールより、大量の人を私は殺めている。
これ以上、私の手を血に染めたくはない。
今更、と言えば今更だが、ピエールと婚約してから、そんな想いを私はするようになっていた。
それに、これは母からの願いでもある。
母は、古いと言われそうだが、結婚するのなら、予備役編入願いを出し、私が家に入るように、と書いて寄越してきていた。
あれだけ怒っていた母が折れて、ピエールとの結婚を了承してきたのだ。
母の願いを、私は叶えるべきだろう。
そして、母からの結婚の許しを得てから、3月程経った後、私とピエールは、フランスのピエールの実家近くの教会で結婚式を挙げることになった。
当然、お互いの家族が参列することになる。
母は私の結婚式に参列してくれた。
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