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第3章ー2

 アラン、彼と私の間に、煙草の煙が漂った。

 お互いに全てを話そうと考えてはいる。

 だが、時の彼方で、この煙草の煙のようになり、はっきりしない部分もある、どこまで相手に伝えられるのか?

 それを象徴するかのように、煙草の煙が、私達の間に漂っていた。


「ピエールの出生前から話すべきだろうな」

 アランは、煙草を吸って、一息吐いた後、天井を見ながら語り始めた。

「ピエールの実父も、ピエールという名だ。僕のスペイン内戦時の直属の上官、中隊長だった」

「だった?」

 私の合いの手に、彼は肯いて、私にあらためて目を合わせた。


「スペイン内戦の際、マドリードへの進撃の途次に、あの人は戦死した。僕は、その死を看取り、遺品と遺言をあの人から託された。妻に遺品を渡して、遺言を伝えてほしいとね」

「そうなの」

「僕の憶測だが、あの人は、亡くなる際に、僕に妻を託そう、と思ったのだと思うんだ。あの人も妻も、家族から絶縁されていたからね。あの人にとって、僕が一番、頼れる存在だったのだろう」

「えらい重荷を託されたものね」

 彼の話に、私は皮肉を交えて言わざるを得なかった。


「帰国した後、あの人の妻の下を訪ねて、遺品を渡して、遺言を伝えたよ。ピエールは、文字通りの乳飲み子だった頃で、彼女は大変困っていた。あの人の母の心を溶かそうと、父と同じピエールと名付けた子を連れて訪問しても、門前払いされる状態だったそうだ。駆け落ち同然で、自分の両親の下を飛び出していたから、自分の両親も頼れない。彼女に、僕は半ばすがりつかれ、我に返った際には、彼女と婚約していた」

 彼は少し長い独白をした後、煙草を、また吸った。

 私は、無言のまま、身振りで話の続きを促した。


「第二次世界大戦が始まる前に、彼女と僕は正式に結婚した。自分の母に、彼女とピエールを託して、僕は出征していった」

 気が付けば、彼は天井をまた見ている。

 幾ら事情があるとはいえ、別の女のことを、かつての女、私に話すのはためらわれるのだろう。


「第二次世界大戦中、ほとんど帰省はできなかった。戦争が終わって、帰還した頃には、ピエールは7歳くらいになっていたかな。僕自身の口で、一応、真実、自分は実父では無く、養父だということを伝えたが、ピエールは言った。僕以外に、自分の父はいないとね」

「そうなの」

 彼の言葉に、私は、また合いの手を入れた。


「幸いなことに、ピエールの父、あの人も、日系フランス人だったからね、僕の子だとピエールを紹介しても怪しむ人は、ほとんどいなかった。だから、一々、実子でないという事も無かった。それこそ、フランス陸軍内で、ピエールが僕の実子ではなく、養子だと知っているのは、極少数だ。ピエール自身、僕を養父だということを言いたがらない。ピエールにとって、僕は実父なんだ」

「そうなんだ」

 彼の言葉に、私は何とも言えない気持ちに駆られた。


 アラナは、彼の実の娘なのに、彼の事を実父という事を知らず、父と呼んでいない。

 それなのにアラナが結婚したいと思っているピエールが、彼を父だと呼んでいるなんて。


「ピエールは、僕の背中を見て育つ内に、僕と同様に陸軍の軍人になることを希望した。それに血もあったのだろう。どうのこうの言っても、僕と同様に、あの人もサムライ、日本の海兵隊の軍人の息子だからね。あの人の実子である以上、サムライの血をピエールも承けている」

「そういうことだったのね」

 私は、彼の言葉に肯かざるを得なかった。


 サムライ、日本の海兵隊の軍人の血を承けている、とピエールが言う以上は、ピエールは、彼、アランの実子だと私は思い込んでいた。

 娘のアラナに至っては、尚更、そう信じ込んでいるのではないだろうか。 

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