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第2章ー3

 私の娘、アラナが、アラン・ダヴーの実子だと推測する根拠は幾つかある。

 その最大の根拠が、アランと私が関係を持ったとき、避妊した記憶が全くないこと、更にこの頃、私が妊娠しやすい時期に当たっていたことだ。

 私は、アラン・ダヴーが、マルランを殺してくれたことに心から感謝しており、彼を悦ばせることに夢中になっていて、彼と関係する際に、避妊することを忘れ去っていた。

 彼が、軍務に戻るために、私の許を去った後、自分が避妊することを忘れ去っていたことに気づいたが、まだ捨て鉢な気持ちが残っていた私は、別にいいか、と流してしまった。


 だが、それ以外の時、私が娼婦として働く際には、できる限り、私は避妊していて、相手にも、避妊を求めていた。

 相手も、それを受け入れていた。

 だから、アラナの父は、アラン・ダヴーの公算が極めて高いのだ。


 更に時が流れ、スペイン内戦は、フランコ率いるスペイン国民派の勝利に終わった。

 アラン・ダヴーが所属していた「白い国際旅団」は解散することになり、アラン・ダヴーは、帰国の途中に、私のいる、バレンシアの「饗宴」に寄ってくれた。

 その際、私は、妊娠していることを、アラン・ダヴーに伝えた。


 今になって思うことだが、何故、あの時、私は素直になれなかったのだろう。

 素直に、彼がそれとなく誘っていたのに応じて、彼と共にフランスに行きたい、と私が言っていたら、彼と私は、あの後、すぐに結婚できたろうに。

 だが、あの時の状況を、更に冷静に考えてみれば、そんなこと言える訳が無かった。

 だって、私は、あの時、カサンドラという偽名を騙る娼婦だった。

 そんな自分が、真っ当な軍人である彼と結婚したい、なんて夢物語にしか、あの時は思えなかった。


 彼は、誠実すぎる程、誠実な態度を示してくれた。

 その時、自分が持っていた英ポンド紙幣の札束を、私に黙ったまま、そっと渡してくれたのだ。

 私と、私と自分の間の子アラナを養い、育てるためだろう。

 彼が去った後、私が中身を確認したら、少々裕福に暮らしても母子2人で3年間、極めて慎ましやかに暮らせば母子2人で5年間は過ごせる大金が、私の手許に遺されていた。


 私は、最初は、この金を遣って、娼婦から足を洗い、子どもと共に別の生活に踏み出すつもりだった。

 だが、冷静に考えを巡らす内に、別の考えが頭に浮かんだ。

 この際、偽名を本名にして、この秘密娼館「饗宴」を手に入れ、この世界で生きて行こう。


 何故、そんな考えが私の頭を占めるようになったか。

 それは、もう元の名、ファナ・グスマンを自分が名乗っては、自分の惨めな今の境遇を晒すことになると気づいたことだった。

 あの若奥様が、夫と娘の死後、娼婦に身を落とし、身を売って生き恥を晒していた。

 そんな話が周知のことになったら、自分のみならず、死んだ夫や娘まで名誉が汚される。

 だから、この際、偽名を本名にして、それで新たな人生を生きて行こう、と考えるようになったのだ。


 更に、もう一つ、私には幸運があった。

 バレンシアを新たに治めるようになったスペイン国民派の大幹部の中に、私の知人、亡き夫の親友を私は見つけたのだ。

 その男は、内戦当初に、夫を見捨てて、バレンシアから逃亡しており、下手をすると利敵協力罪に問われても仕方ない行為をしていた。


 私は、その男と接触し、かつてのことを仄めかすことで脅迫したり、英ポンド紙幣をそれとなく示すことで買収したりしようと試みたところ、その男は良心を痛めてしまったらしい。

 かつての親友の若妻が、娼婦に身を落として、完全に荒んでしまい、自分を脅迫したり、買収したりしようとしてくる。

 その男には耐えられないことで、私に止めるように言ってきた。


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