プロローグ
作中に出てくる西サハラ共和国は、架空の国です。
何故、このような国が出来たかは、第1章の後で、説明します。
カラカラというシーリングファンの音と、窓から差し込む太陽の光で、私は目が覚めた。
昨日から、外泊許可を取って、基地から外出して休んでいるのを、寝ぼけていた私は忘れ、慌てて軍服を着ようとして、ベッドを出ようとした時に気づいた。
ベッドの中に男、彼がいた。
とうとう、やっちゃった。
あれ程、結婚式まで純潔を保とう、と固く決めていたのに。
あーあ、後悔先に立たず。
でも、彼ならいいか、サムライの血を引くことを誇りにしている彼だ。
万が一の場合、きちんと責任を取ってくれるだろう。
それに、一応、お互いに親にも言ってない段階だが、婚約もしてくれたし。
私は、自分で自分を納得させ、まだ、寝顔の彼の頬に、目覚めのキスをした。
私、アラナ・ハポンは、バレンシアの名うての娼館「饗宴」の女主人、カサンドラ・ハポンの一人娘だ。
私は、父の名を知らない。
私が6歳の頃からだったと思うが、父の事を聞くと、母が思い切り不機嫌になるので、自然と父の名等を母に聞くのを止めた。
母は、意外と謎が多い。
スペイン内戦の混乱の際に、家族を全て失い、生き延びるために「饗宴」に転がり込んだという。
だが、それにしては不思議なことがある。
内戦終結後、当時の「饗宴」の持ち主は、内戦中は共和派に味方していたこともあり、国外逃亡したのだが、その際に「饗宴」を買い取ったのが、母なのだ。
母はそんな金をどこから調達したのだろう。
そして、母は、私以外には、身寄りが誰もいないし、「饗宴」に転がり込む以前の知人もいない。
たまに、「ひょっとして」と、街で見知らぬ他人に声を掛けられることもあるが、母が名乗ると、「他人の空似かしら」と首を捻って、その人は去っていく。
母は、その度に、秘かに溜め息を吐いている。
確かに他人に間違われるのは、気づまりだろうが、それにしても、と思う。
話は変わるが、私は、10歳になるかならないか、の頃から、男相手には辟易する羽目になった。
そもそも、「饗宴」の女主人の一人娘なので、娼婦だと私は誤解されることが多い。
母も、一時は「饗宴」の娼婦として、客を取っており、私の実父は、その相手だという噂もある。
(母に、私が、その噂を問いただすと、私は、母に叱り飛ばされ、しばらく母は私と口を利かなかった。)
それに、私の体型が問題にもなった。
今、私は、日本の戦闘爆撃機「雷電」を操る操縦士なのだが、「雷電」だから大丈夫、という噂が流れる程の巨乳にして、見事なプロポーションの持ち主なのだ。
自慢じゃないが、私のバストは、(公称)Fカップの91、でも、実際はHカップの90台半ばという素晴らしさだ。
ヒップも、90台という現実がある。
もう、私が10歳になるかならないか、の頃から、「饗宴」の客の複数から、私を指名して、関係を持ちたいとの声が掛かる有様だった。
母が、あの子は10歳そこそこで、というと、大嘘だ、と非難されたらしい。
その頃から、学校でも、私は、金さえ出せば、幾らでもやらせてくれる女、と言う陰口に悩まされた。
だから、空軍士官学校に私は志願し、空軍士官への路を歩んだのだが。
空軍士官学校時代も、同様の陰口に、私はずっと悩まされた。
空軍士官任官後も相変わらずだった。
それ故に、こんな場所まで、私は来てしまった。
ここは、西サハラ共和国、かつて、スペイン領モロッコと言われた場所だ。
ここには、いろいろな厄介事が押しつけられた結果、1960年の現在、モロッコの支援を受けた反政府軍が活動し、スペイン軍とフランス軍を中心とするNATO軍が、西サハラ共和国を支援して、反政府軍を攻撃している。
私は、そこにNATO軍の一員として、スペイン本国から派遣されていた。
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