第1話「紅の巨人(7)」
タクミ達のマシンが無事不時着したのを見届けると、ライトはセイジに確認する。
「そういう訳だ。俺達だけであいつをなんとかする」
「いいっすよ。やっぱ怪獣退治はこうでなくっちゃ!ピンチとか逆に燃えますよ」
「ゲームじゃないんだぞ!」
ライトはセイジの言葉に呆れながらも、彼のそういったポジティブ思考は認めていた。グロウスをライトは視認する。鼠は黒い煙を吐き続けていた。
(さて、どうするか・・・)
こちらガードバードBの武装はマシンの両端のビーム兵器の「ウィニング・レイ」と翼の内側についた、ニ砲身から発射される実弾兵器「ガドリング・ランチャー」ぐらいだ。致命傷を与えるには決定打に欠けていた。ライトは考えた、こんな時兄のホシミヤ・シンならどうするかと・・・。
(兄貴なら・・・・足を狙う!)
シンが以前、今の自分たちと同様な状況になりながらも、少ない武装で怪獣を倒し撃破した事があったはずだ。確かその時は怪獣の足を狙って相手の動きを封じたはずだった。どんな生物でも動きを封じられては恐るに足りんはずだと考えた。ライトも兄の取った行動に習って足を攻撃する事を決めた。
「足だ。足を狙うぞ。セイジ」
「よし!やってやりますよ」
後輩の調子の良い返事を聞いたライトは機体を操作して、巨大鼠に近づく。黒い煙に注意しながら飛行する。グロウスはそれを見て「がああああ!!」と鳴く。グロウスは近づく戦闘機に対し威嚇行動を取っている。ライトは武器の標準を目の前の生物の巨体の右足に合わせた。まずは片足のどちらかを潰すためである。再び、そこに向けて狙撃する。
「ウィニング・レイ、ガトリング・ランチャー全弾、ファイア!」
ビームと実弾がそれぞれの砲身から打ち出されていく。それはグロウスの足に直撃する。攻撃を受けてグロウスは痛がっている。悲鳴のような鳴き声をあげていた。しかし、それで動きが止まるというまでにはいかないようだ。グロウスは右足に攻撃を受けながらもライト達の戦闘機に向けてゆっくり近づいてくる。進撃を続けていた。
「攻撃、対象の右足に命中・・・・だけど先輩、全然効いてないですよ!?」
「うるさい!やり続けろ!攻撃を続けろ!集中砲火だ。」
セイジの言葉にライトはそう返事をする。確かに思った以上に効果は無いようにも見えた。しかし、攻撃をやめる訳にはいかなかった。
その時、グロウスのいる近くの山場の崖に小さな何かがいた。それにセイジがモニター越しで気がつき、コクピットの窓からも肉眼で確認する。
最初は何かの見間違いかと思った。だが、それは見間違いではなかった。崖の上に黒い人影がいたのだ。誰かが、怪獣と自分達が戦っている、この場にいる。セイジはライトに報告する。
「セ、先輩、崖の上に人影が!」
「な、何!?逃げ遅れた非難民か!?」
非難民がまだいる?そんな報告は聞いていなかった。だいたい、ここら辺には一般民家は無いという説明も受けていた。
セイジの報告を受けてライトも崖の上の人物の確認をする。もしそれが事実なら、怪獣撃退よりは、その人物の非難救助を優先しなければならない。ライトが見た崖の上、そこには確かに人影がいた。
崖の上に黒い二人の人影がいたのだ。背の高い人物と背の小さい人物。遠目からなので、その二人が黒い衣装を着ている事しかわからなかった。その人物達はまるで二人で怪獣と戦闘機の戦いを観戦しているように、こちらを見ていた。しかし、それはライトが見た途端、煙の如く消えた。まるで幻のようだった。
「嘘だろ!?消えたぞ!?」
「ええ!?見ましたよ。ほんとに見ましたよ!」
確かにライトもそれは見た。セイジが言っている事は嘘ではなかったはずだ。
そんなやり取りをライトとセイジは二人がしていると、グロウスは今まで引きずって、地上に下ろしていた長い尾を立ち上げ、ムチを振り回すようにライト達の乗るガードバードBに向けてきた。ライトはそれを回避しよう機体を操作した。だが、崖の上に気を取られていたせいで、回避行動が遅れる。尻尾攻撃は戦闘機の右翼に直撃した。そのせいで、機体の右翼が破損してしまった。これでガードバードBも飛行不可能になる。
ライトは機体を操作して立て直そうとしたが、やはりダメだった。右翼破損で飛行が不可能になった戦闘機などただの鉄の塊だった。そのまま地上に向けて落ちていく。
「うわああああああ!!」
「落ち着け!脱出するんだ!」
落ちていく戦闘機の中でセイジが悲鳴を出し、ライトが機体から脱出の指示を出す。しかしグロウスはその落ちていく戦闘機に向けて、大きな口から例の黒煙を吐いた。そして、その黒煙が戦闘機にかかる。
コクピットの脱出ボタンを押すセイジはまたも悲鳴を出した。
「だ、脱出!・・・脱出装置起動しません!?」
「ちっ!あの黒煙のせいか!?」
やはりあの黒煙には機械をおかしくする効果があるようだ。だが、今はそんな事を理解しても仕方がなかった。機体は飛行不可能、脱出は不可能。今度こそおしまいだった。
戦闘機は地上に向けてどんどん落ちていく。このままでは地上に叩きつけられて自分達は間違いなく助からないだろう・・・・ライトは死を覚悟した。
(アオイ、またあんたを悲しませるな・・・・ごめんな。兄貴、今そっちに行くよ。)
落ちていく鉄の塊の中で愛する女に心の中で謝罪しつつ、今は亡き兄の元へ旅立つ決意をした時だ。ライトの頭の中に懐かしい声が響く。
(諦めてんじゃねぇぞ。お前はそれでも俺の弟かよ!?)
「え!?」
驚くライト。それは死んだはずの兄の・・・シンの声だった。
さらに驚く事が起こる。一瞬眩い紅の光が一帯を照らした。あまりの眩しさにライトとセイジも眼をつぶる。グロウスもその紅の光のせいで一瞬怯む。
少しして、眼をあけるライト達。一体、何が起きたのか分からなかった。最初、自分たちは機体が落ちたせいで死んだのかと思ったが、違った。機体が地上に叩きつけられた訳でもなかった。
そこには、巨人がいた。その巨人が鉄の塊と化し、地上に落ちるだけだったライト達の機体を掌で受け止めていたのだ。それを見てライトは驚きの声を出す。
「く・・・・くれないの・・・・紅の巨人!?」
そこにはまるで回りの山にも負けない程の大きな紅の巨人が立っていた。