第1話「紅の巨人(6)」
2機のガードバードはグロウスの吐く黒い煙に注意しながら飛行する。グロウスからある程度距離を取り、ライトは再び、兵器の標準を巨大鼠の頭に合わせる。
「ターゲットロックオン。ウィニング・レイ、ファイア!」
再び、青色のビーム兵器がグロウスに直撃する。苦しそうにもがく。ネズミは叫びながら怒り暴れている。連続ビーム兵器は、それなりに効果はあるようだ。但し、致命傷とまではいかない。
ライト達のいる位置から少し離れた位置にいるガードバードAのコクピット内では、ガードバードBの方に気を取られているグロウスを、タクミはもう1度モニターと肉眼の両方で確認する。自身のマシンの両翼に搭載された2つのOD弾頭ミサイルを巨大ドブネズミの体に撃ち込む為のチャンスを伺っているのだ。
OD弾頭ミサイルは過去に日本の東京湾に出現したある伝説の怪獣を倒したという伝説の究極兵器を参考に作られたという事だった。その怪獣の名前をタクミは失念してしまっていたが、とにかく凄い強く巨大な怪獣で、東京を一夜で火の海にする程凄い怪獣だったという事は覚えていた。という事はその怪獣を倒したその伝説の究極兵器はさらに凄くて強力という訳だ。
その伝説究極兵器を参考にして作られたというOD弾頭ミサイルはG.U.A.R.D.の中でも最強クラスの兵器とされていた。「OD弾頭ミサイル、効力:攻撃対象の怪獣は死ぬ!」なんて冗談まである。つまり、「OD弾頭ミサイルで死なない怪獣はいない。この世に存在しない」と言うぐらいだ。
でも、やはりどんな凄い強力な兵器でも対象に当たらなければ意味がない。ミサイルが外れないように、タクミは今そのタイミングを見計らっているのである。例え、当たっても、対象の変な所に当たっては致命傷になるダメージにはならないので、やはりこれも意味がない。致命傷になるように相手に確実に直撃させる必要性がある。細心の注意を払って発射しらなければならないのだ。アライデも同様にそのミサイルを打つタイミングを見出す為の操作を行っていた。
「アライデ、私が指示したら、ミサイルを発射しろ。標準と攻撃はお前に任せる」
「了解!」
タクミはアライデにそう指示した。彼女は再び、グロウスを確認する。グロウスは相変らず、ビーム兵器の応酬を受け続けて苦しみの雄叫びをあげている。
あちらは、攻撃し続けているライト達の乗るBのおかげで、まだタクミ達が乗るAの方に構っている余裕などないようだ。幸い、今はあの黒い煙も吐いていない。怒り続けるグロウスは四つん這いのポーズをやめ、その巨体を立ち上げた。2本足で立ち上がり、腕を振り回している。タクミはチャンスだと思った。立ち上がった事により、グロウスの心臓がある右胸の部分が見えるようになった。しかも、グロウスは腕を振り回している。隙だらけだ。
「よし!今だ!」
「了解、ターゲットロックオン。OD弾頭ミサイル、ファイア!」
タクミの合図と共にアライデはミサイルの標準をグロウスの胸に合わせて、マシンの両翼に搭載されたミサイルを二発同時に発射する操作を行う。ミサイルは安全装置が外れて、発射された。弾丸のような物凄い速さでその二発のミサイルはグロウスの胴体の胸部に直撃して、大爆発を起こした。ミサイルの爆発で周囲に黒い爆煙が発生する。グロウスの体はミサイルの爆発で黒焦げとなった。「ぎゃああああああああ!!」と叫び、グロウスはその巨体を倒した。
「やった!」
ガードバードBのコクピットのセイジが、倒れた鼠を見て、またもはしゃぐ。こうして、グロウスは見事な丸焼きネズミとなった・・・・いやなったはずだった。グロウスがその場で倒れた、その直後、またも異常な事が起きて、全員が驚く羽目になった。
なんと、グロウスは一瞬、倒れただけですぐに起き上がった。そして、「があああああああ!!!」と雄叫びをあげて、例の黒い煙を吐き出した。それはまるで激しい怒りの黒炎ように見えた。
「!?」
全員が驚愕し慌てた。急いで各機が回避行動を取る。黒い煙に当たらないように距離を再度取った。タクミが叫ぶ。
「おい!OD弾頭ミサイルが効いてないぞ!?どうなっている!?」
「わかりません!確かに直撃させたはずです!」
アライデがそう叫ぶ。彼の言うとおり、確かにミサイルは直撃させたはずだ。それはタクミも認めていた。しかし、グロウスは健在だった。
OD弾頭が効かない怪獣なんてこれまで前例がなかったはずだ。前回のグロウスもこれで倒した。グロウスだけではない、他の怪獣もこれで毎度毎度倒してきた。でも、今回はそれが効かなかった。何故だ!?この場にいるメンバー全員がそう思った。
過去にない、黒い煙を吐き、ミサイルが効かないグロウスとの遭遇。今回の出撃は異常なことばかりだ。
OD弾頭ミサイルはガードバードAに2発しか搭載されておらず、あれで打ち止めだ。補給に基地まで戻っている訳にはいかない。それを行っていては、グロウスはその間にここから10キロ近く離れた場所に存在する、市街地に入ってしまう恐れもあった。
タクミは苦悩しながら、再度コクピットからグロウスを視認する。下方の地上にいるグロウスは叫びながら黒い煙を吐き続けている。グロウスの煙は徐々にこの一体のエリアを支配するように広がっていた。その時だ、注意して飛行していたはずのガードバードAに黒い煙がかかりそうになった。ガードバードAは機体を回避させようと行動を取ったが、時既に遅しであった。黒煙はガードバードAにかかってしまったのだ。それにより、機体に異常が発生する。飛行状態の機体のバランスがおかしくなったのだ。コクピットの2名の隊員はなんとか機体のバランスを立て直そうとしていた。
「ど、どうした!?」
「わ、わかりません!?機体の各部分に原因不明の異常が発生しました!恐らくあの黒い煙が原因と思われます!」
アライデの言葉にタクミもモニターを確認する。確かにコクピットのモニターディスプレイに機体の各部分の異常事態を示す表記がされ、映し出されていた。
どんどん機体の飛行バランスは崩れていく。なんとか立て直そうと、操作しても機体が思うように言うことを聞かないのだ。これでは戦闘続行は不可能だ。いや、それどころか最悪墜落だって有り得た。それぐらい機体は異常状態に陥っていた。
謎の黒煙を吐くグロウスは「があああああ!!」と叫ぶ。それはまるで外敵を退けた事を確信した、喜びの声だった。
『副隊長、アライデさん!大丈夫ですか!?』
基地でモニタリングしていたサクラが二人の身を案じた。ガードバードBのライトとセイジも驚きながらそれを見ていた。
(おいおいまじかよ!?)
黒煙で機体の精密機械に異常が発生していた。黒煙がメカを狂わせる。バランスを崩し、通常飛行が不可能になっていくガードバードAのタクミはこの異常事態にあくまで冷静に対処しようと心がけていた。彼女はアライデに指示を出す。
「アライデ、このままでは通常飛行は無理だ。落ちてしまう。だけどその前に不時着は可能か?」
「なんとか出来ます。可能です!」
「よし、機体お釈迦でフクベのおやっさんに殺されたれたくないからな。なんとか機体を安全地帯に不時着させて、機体のトラブルを確認する。聞こえているか、ライト!」
『はい!』
「そういう訳だ。トラブルの確認の為に一旦不時着する。お前達はあの黒い煙に注意しながら、グロウスに攻撃を続行しろ。あの黒煙には機体がおかしくなる効果があるようだ。こちらもマシントラブルが解決次第、再合流して攻撃を再開する。あのドブネズミをなんとかするんだ!」
『了解!』
ライトの返事を聞いて、タクミは少し安堵した。通信が終わるとタクミは機体を操作する。そして、ここから少し離れた距離場所にある平地にガードバードAを無事不時着させた。安全地帯に戦線離脱したのだ。