表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第1話「紅の巨人(4)」

「先輩、まぁ気楽に行きましょうよ。相手はでかいネズミなんですから」

「ああ・・・(楽観主義者め)」


 ガードバードBのコクピットの背後の補助席にいるセイジが前方の主操席のライトが曖昧な返事をしながら心の中で悪態を付く。今は基地で出撃前の最終チェックが行われていた。

 ライトもセイジもコクピットのディスプレイにて機体の異常がないかチェックしている最中だ。


「でもさぁ、先輩。なんか、ここのところ出撃多くないっすか?俺4月から入った新人ですけど、士官学校で習った日本の怪獣出現頻度っていうんですか、聞いていた話より多いと思うんですけど」

「確かにな。俺もそう思う」


 セイジの言葉にライトが頷いた。セイジの指摘した通り、怪獣出撃頻度はこのところ増えている。日本でも確かに怪獣は出現するが、少し前までは1、2ヶ月間に4回あるかないか程度だった。海外のある国では1ヶ月間に10体も怪獣が出たなんて話もあるのだ。それを考えると、他の国に比べて、日本は少ない方だ。運が良ければ、怪獣がまったく現れず出撃回数がゼロの月もあったぐらいである。

 その為か予算の都合等も兼ねて、極東基地の戦力も最小限に抑えられていた。基地に迎撃用戦闘マシンのガードバードが数機しか配備されておらず、対怪獣迎撃隊員メンバーもライト達の所属するチームのみだ。


「怪獣が増えるより、人が増えて欲しいですよ。人員が増えないんすっかね?人を増やしてくださいよ先輩」

「俺に言うなよ。俺じゃなくて、もっと偉い人に言うんだよ。そういうのは」


 セイジの言葉に若干イラつきながらもライトも心の中ではその言葉に同意していた。

何故、極東基地の現場メンバーはライト達のチームのみの少数精鋭体制なのか。それにも理由がある。怪獣なんて訳の分からない化物と戦いたいという物好きや、進んで危ない仕事をやりたいなんて人間がいないからだ。

 また、怪獣迎撃マシンにはそれなりの操縦センスも必要とされる。いくら、技術力の発展でコンピュータによる飛行機のオートマ操縦がある程度可能となったとは言え、相手は予測不可能な動きをする怪獣達である。コンピュータだけのオートマ飛行だけでは戦えない。そんな怪獣達の動きに俊敏かつ迅速な対応が可能な優秀な人材育成と確保も目下の目標とされている。しかし、やはりそうなかなか優秀な人材は来ないし、見つからないのであった。セイジは性格に難があるが、士官学校卒業直後に即戦力として抜擢されて、すぐに現場に回された理由もそれが起因していた。

 そういう事もあり、G.U.A.R.D.の対怪獣用戦闘員が一向に増えないのが問題になっている。要は深刻な人手不足だ。ライト達所属チーム一班で極東方面の警戒・索敵・警護・迎撃・一般人の安全エリアへの避難誘導・・・・などなどの全方面カバーなんて無茶難題をやっているのもそれが一番の理由だった。

 日本における怪獣出撃頻度は2ヶ月間に4回が、ある時期から増えていった傾向があった。怪獣の出現回数の増加理由を色々調査も行っているが原因は依然として不明のままだ。

今年に入ってから現在の5月の間までには、もう既に30回近くも怪獣の出現に対し、極東基地は出動を行い、対怪獣災害行動を取っていた。

 その内の何回かは怪獣と何かを見間違いした一般人からの誤報である事もしばしば見受けられたが、それでも前年比3倍近くになっていた。当然、極東基地はその対応を強いられる。それにより、ここ最近ではライト達のチームは、毎週の間隔で出動する羽目になっている。チームメンバーは正直、激務に追われて過労でヘトヘトになっていた。

 よって、他国の方の怪獣被害が深刻という状況だったのに、現在では逆転現象が起きている。日本の怪獣被害率が昨年は最下位の方だったのに対し、今年は世界各国の中でも上位の方だ。

 「ジャパンはモンスターのホームグランドだぜ!」なんて、他国のニュースでも話題になっていた。日本に出る怪獣が増えたせいで、日本に来る海外旅行客が減ってしまっているのも事実だ。何社かの海外企業の支社が日本からの一時撤退や、一時休業を決めたところもある。怪獣の問題はそういった経済的な問題へも直結してくるのだ。

 この不平した状況を極東基地の幹部はG.U.A.R.D.本部の上層部に報告して、極東方面の戦力の増強と補強と人員の補充を打診している。だが、上の人間は現場の苦労を知らないのか、又は予算を出すのを渋っているのか、


「日本における怪獣出撃頻度増加の原因は調査中で不明だが、それは一時的な物と見ている。時間の経過と共に、また元に戻り、沈静化の可能性も有り得る。よって今のところ戦力の増強・補強予定などなし。現戦力でこれに対処させよ」


と上層部からの良い返事が得られないのが現状だった。

 ライトはふと思った。


(あれ?日本で怪獣出現回数が増えた時期って何時ぐらいだったかな・・・何かの時期と重なっていたような・・・・その時期から少しずつ増えていった気がする。でもなんだ?)


 日本の怪獣出現頻度増加開始時期はある事が起きた時期と重なっていた様な気がした。今までは特に気にもしなかったが。しかし、それがライトは思い出せなかった。自分にも大きく関わっている事だったはずだ。彼はそれが何か思い出せず、頭を悩ませていた時だ。オペレーションルームから通信が入った。コクピットのディスプレイに極東基地のオペレーターのフジノ・サクラが映し出された。彼女もこの春から極東基地へ配属された新人隊員だった。


『オペレーションルームのフジノです。今回のグロウス撃退作戦のオペレートを務めさせていただきます。』

「よろしく頼む」

「よろしく。サクラちゃん、今度デートしない?」


 ライトの返事には頷きつつ、サクラはセイジの言葉を無視した。そして彼女はライトに対してある質問した。


『あの・・・ホシミヤさん、お兄さんのお墓参りはよかったですか?』

「あ!そうですよ。今日、先輩のお兄さんの命日じゃないですか。」

「二人とも気使いありがとう。墓参りならいつでも行けるよ。それより今は怪獣退治さ」


 気使ってくれた後輩二人にそう返事しながら、セイジの発した「お兄さんの命日」という言葉で、ライトはようやく先程の疑問の解答を出した。


(そうだ・・・日本で怪獣の出現回数が少しずつ増えたのは1年前の「龍ヶ森湖事件」が起きた後ぐらいだったはずだ・・・つまり兄貴が死んだ直後からだ・・・・!)


 「龍ヶ森湖事件」・・・ライトの兄であるホシミヤ・シンが死んだ事故事件である。あの事件も色々と不可解な事件だった。そして、その直後と言ってもいい時期から、日本での怪獣出現頻度増加が徐々に始まったのだ。


(両者には関係や接点がある?偶然か?考え過ぎかな・・・・・)


 兄が突然死んだショックと度重なる怪獣迎撃の激務のせいでその事実が忙殺されてしまったのだろうか・・・何故今まで自分はその事に気がつかなかったのかとライトは思った。彼はそんな事を頭に浮かべつつ、最終チェックを済ませる。

 出撃準備が終わり、いよいよ発進スタート用のカウントダウンが鳴る。その音を聞いてライトは意識を今に向ける。カウントダウンが終わり、前方のシグナルランプが赤から緑なればマシンは出撃する。


(疑問については後でゆっくり考えよう。今は怪獣退治が最優先だ)


『3』


 オペレーターのサクラがカウントダウンを開始した。彼女が数字を読み上げていく。


『2、1、0!出撃!どうぞ!』


 その言葉が終わると同時に目の前のシグナルが赤から緑になった。


「ガードバードB、発進!」


 ライトがそう言うと発進用カタパルトに乗せられたガードバードBは助走を付けて、極東基地雷島から勢いよく打ち出される様な形で空に舞い上がった。続けて、ガードバードAも同様な方法で打ち出されて行く。

 雷島から少し遠く離れた位置の海上にいる漁船に乗っている漁師はその時たまたま空を見上げていた。その漁師にはその2機の戦闘機の姿は青と赤の弾丸のようにも見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ