第1話「紅の巨人(2)」
前世紀である、21世紀の末頃、アジア大陸の某国の地底より未知の巨大生命体が出現。その未知の巨大生命体は人々を襲い、その国の街を破壊した。その同時期にアジアだけではなく、他の国々でも同様な巨大生命体が出現し、目撃される事案が発生した。そして、各国で同様な被害が報告された。
それは俗にいう「怪獣」と呼ばれる存在だった。文明の発達の弊害にて起きた自然破壊、自然災害の影響で架空の存在と思われていた地下に眠っていた怪獣達が目を覚まし復活したのだ。
怪獣は地下だけではない。地底怪獣の出現により、生態系のバランスが崩壊。それが引金になり、生物が持つ体内ホルモンが異常変化を起こし、地上、海の生物までもが凶暴かつ残忍で獰猛な巨大生命体へと突然変異する事案が後を絶たなかった。
アジア、オーストラリア、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパ、ロシア、そして日本・・・・次々と世界各国に怪獣が出現し、それにより発生する怪獣災害が留まる事はなかった。怪獣達はある時は人を襲い、ある時は都市を破壊した。そして甚大な被害をもたらした。怪獣災害が世界全体の共通の驚異と問題になったのだ。
22世紀になっても怪獣災害の驚異は、去る事もなく、より深刻化する。年々増加の一途を辿っていた。この異常事態を打破するために国連は対怪獣災害専門チームの設立を決意。
国際連合広域救助防衛機関(Global.United.wideArea.Rescue.and.Defenders. グローバル・ユナイテッド・ワイドエリア・レスキュー・アンド・ディフェンダーズ)通称・・・G.U.A.R.D.(ガード)が誕生した。怪獣災害問題への解決に乗り出したのだ。
「でもさぁ・・・G.U.A.R.D.とかいう名前には少し無茶があると思うよ」
「まあ、時たまに私も思うけどさぁ・・・仕方がないわよ」
そんな事を話している間にライトとアオイの乗る車が特殊防衛機関「G.U.A.R.D」の極東支部がある雷島に到着した。雷島は前世紀に東京湾の一部を埋めたてて完成した人工島だ。そこにあるドーム型の建物が基地となっていた。そこに車が入っていった。そのドームは二人の職場であり、今は亡きシンの職場でもあった。
車を停めた地下の駐車場でアオイとは別れた。彼女はこの基地で研究職をしていた。云うなれば裏方である。一方のライトは表型の現場仕事をしていた。現場で怪獣退治行うスペシャリストチームの隊員だ。兄も同じ職場で以前は働いていた。兄のようになりたいと思い、ライトもこの職を選んだ。
兄は31歳の若さで隊の長まで上り詰めた。それ程、シンは優秀な人物だった。前線で怪獣達をばったばったと倒しまくっていた。その好積が組織の上層部も認められていた。しかし、2年後、彼は結婚を機にそれを引退する。それがアオイとの約束だったからだ。
「もし、結婚するなら危ない仕事は出来ればやめて欲しい」
アオイ、曰くシンが怪獣と戦うのを見るのは少し心苦しいところがあったそうだ。いつ、彼が怪獣のせいで大怪我を負ったりしないかと心配だったのだ。
そのアオイの言葉にライトも同意し、比較的安全な輸送船任務への異動を兄に促した。確かに兄の戦線離脱は大幅な戦力低下にも繋がるが、もし、兄に何かあればアオイが悲しむ。それだけは避けたいとライトは判断した。
「兄貴、安心して引退してくれ。俺がその分頑張るからさ」
まだ新人だったくせにこんな大口よく叩けた物だとライトは今更ながら思い返した。しかし、シンは結局死んでしまった。あの判断は正しくなかったのだろうか・・・と彼は時たまに思い悩む事もあった。
ライトはロッカールームに行き、G.U.A.R.D.専用の隊員服に着替える。男女共通で寒暖対策もばっちりで、衝撃への耐久性を備えたオレンジ色を基調とした隊員服だ。下半身は黒いズボンでこれも同様な仕様だ。
最初、この制服が正直ダサいと思ったが段々着ているうちに愛着が沸いてくるという不思議な服だ。なんでも昔の特撮ヒーロー番組に出てくる防衛組織の人間が着ていた制服を参考にして作られたとの噂だった。2120年バージョンということで去年支給された物だが、どこが前のバージョンと違うのか疑問だった。前の制服とはほぼ見た目が同じなのだ。説明では若干軽くなったとの事だったが、実感はわかなかった。
制服に着替え終わったライトはロッカールームを出てオペレーションルームに向かう。彼がオペレーションルームに入ると、ライトと同じ制服を着た女性が彼に話しかけてきた。彼の所属するチームのサブリーダーであるオオガミ・タクミだ。
「ライト、悪かったな。こんな日に呼び出して」
「まぁ仕方がないでしょ。怪獣が倒すのが俺の仕事で使命なのですから」
「まったく、シンさんの命日になんて日だ・・・・」
そう言って彼女はオペレーションルームのメインモニターに忌々しい思いを込めて目を向ける。ライトも同じ方向を向いた。そこには巨大なネズムのような生物が日本のとある山間部を跋扈している様がモニターに映し出されていた。昨晩、地域住民からの目撃情報があり、極東基地は第1警戒態勢のまま待機している状態であった。ライトは兄の命日であるので特例として、墓参りに出かけていた。しかし、あれが完全に出現し、確認されたことにより、非常収集がかかったのだ。ライトがそれを見て呟く。
「またあいつか・・・・」
ネズミのような巨大生物は誰が呼んだか「巨大鼠獣 グロウス」と呼ばれていた。グロテスク・マウスの略らしい。極東基地ではグロウスは同一種の別個体とは何回か戦った事があり、倒した事もあった。怪獣のそういった「同一種の別個体」といった出現パターンは珍しい事ではなかった。
「えーと今年の頭に1回あいつと同じタイプを倒したよな?私とお前で。今回のも前回のとデータ上はほぼ同じ大きさ、重さらしい」
ライトにタクミが問う。ライトが頷きながら答えた。確かに今年の1月にタクミと共に対怪獣用迎撃マシンに乗り、出撃した際に一緒にグロウスを倒した。今回の個体もその時に倒した、前回の個体と同じようなデータとの事だった。
タクミがライト共に出撃準備の為のヘルメットの着用をする。
「では出撃する。他のメンバーは既に格納庫で待機中だ。何か質問は?」
「隊長はまだパリの総会から戻ってきてないんですか?」
「そうだ。なんでも大事な会議だからって極東基地総司令達と行ったきりまだ戻ってない」
現在、極東基地の幹部はパリで行われているG.U.A.R.D.の総会へ参加していた。この基地の総司令、副司令、隊長は現在不在のため、副隊長である彼女が現場の総指揮を任されている。
もう1つライトが彼女に質問する。
「あの巨大ネズミ、まだ市街地には入っていませんよね?」
「その通りだ。一番近い市街地まで10キロほどあるのが幸いだな。それにその市街地には既に”アネゴ”に行ってもらって市民の避難誘導を警察等の各自自体と協力してやってもらっている。あと小1時間程で終わる予定だ。」
怪獣災害対策における最重要優先事項やはり一般人を怪獣達から守ることある。
事彼女の言葉にライトが納得する。タクミの言葉から出た“アネゴ”というのはこのチームのある人物のあだ名だった。とても頼りがいがある姉のような人物という事でそのあだ名がつけられた。“アネゴ”本人も気に入っている名だった。ライトはこう思う。
(あの人が行ってるなら大丈夫だ)
「では行くぞ!」
そうタクミに促されてライトは彼女と共に対怪獣迎撃用のマシンが配置してある格納庫に向かった。