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第1話「紅の巨人(1)」

巨大鼠獣きょだいそじゅう)グロウス 登場!




挿絵(By みてみん)

2121年5月10日


「もう1年か・・・早いな・・・・」


 晴れた暖かい日の正午過ぎだった。青年が1人虚しく墓石の前で呟いた。ここは日本のどこかにある霊園だ。青年がここに兄の墓参りに来ていた。墓石には「星宮家之墓」と掘ってあった。

 青年の名はホシミヤ・ライト。1年前にA県の龍ヶ森湖の上空にて兄であるホシミヤ・シンが乗っていた輸送機が突如爆発。そして、兄は帰らぬ人となった。

 結局、事故の原因は分からなかった。原因不明の爆発。恐らく輸送機の整備不良と事故は処理された。


「兄貴・・・なんで死んでしまったんだよ・・・・」


 この墓前で何回そんな台詞を吐いただろうか。幼くして両親を亡くしたライトに取って、兄のシンは兄弟でもあり、親代わりでもあった。他に頼れる身内がいなかったせいでもあろう、時には父のように怒られ、母のように優しく仕付けられた。

 シンはライトに取って目標だった。彼を超える事が自分の目標だった。そんな兄が死にそれが出来なくなってしまった。ライトの心に穴が空いてしまったような日々を毎日送っていた。

 また、自身の身を犠牲にしてまで、弟である自分を育ててくれた兄にも若干負い目を感じていた。いつか恩返しをすると心に誓っていたのに・・・。

 他人から見れば「ブラザーコンプレックス」と呼ばれるような感情を彼は兄に抱いていた。そんな生前の兄への思いをライトが馳せていた時だ。


「ライちゃん、来てくれたんだ・・・シンちゃんの墓参り」


 背後から知っている女性の声がした。彼は振り向いて声の主を確認する。兄の結婚相手の女性だった。彼女の手には花束が握られていた。


「アオイ・・・・・さんか。当たり前だろ。兄貴の命日なんだから」

 

 ライトは昔の癖でつい彼女を呼び捨てしようとしてしまって、慌てて「さん」付けをした。そこには兄の妻だったホシミヤ・アオイ〈旧姓:キリヤ・アオイ〉が立っていた。義弟に「さん」づけされて彼女は苦笑した。


「「さん」付けはやめてよ。昔見たいに呼び捨てでいいのよ」

「そうはいかないよ。あんた一応、兄貴の嫁さんじゃん。という事は俺の義姉さんだろ?」

「まぁそんだけど・・・。あなた昔から変な所が真面目ね」


 彼女と兄の結婚を機にライトは「アオイ」と呼び捨てを辞めた。

 シンとアオイとライトは兄姉弟のような存在だった。近所に住む幼馴染だ。彼女とは5歳程、年が離れており、姉のような存在でもあったが「お姉ちゃん」とは呼ばずに「アオイ」と呼び捨てしていた。

 アオイもそんなライトを弟のように可愛がった。ライトがアオイを呼び捨てするのをやめたのは彼女への思いを諦めるためのある種のケジメのような物だった。兄であるシンや、目の前のアオイ自身にも黙っていたが、ライトはアオイへの恋愛感情を抱いていた。ライトはアオイに語りかける。


「もう1年だな・・・・」

「ええ・・・なんか嘘みたい。だってあの人の死体見つかってないじゃない。もしかしてどっかで生きているかな・・・・って考えてしまわ」


 実のところ、シンの遺体は発見されなかった。発見され回収された機体の残骸から見て、パイロットは死亡と判断された。コクピットは大破で酷い有様な上に、機体から脱出した形跡もなかった。

 最初はシンが死んだというのは何かの冗談かと思っていたが、見るも無残な機体の姿を見て、シンの死を受け入れた。ライトとアオイも残骸を見てその場で泣き崩れた。「あれでは助かる訳がないだろう」と・・・。


「シンちゃんがもしかしたら、どっかから私たちを驚かそうと、出てこないかなって時々思うの」

「気持ちはわかるけどさ・・・・」


 受け入れてもそう簡単に納得できる物ではなかった。実ところ、ライトもシンが実は生きているんじゃないかと願望を抱いてしまっている部分も確かにあった。だが、それはあくまで願望だ。そんなドラマや映画みたいな奇跡は起きる訳がないとそう思うことにした。


「まぁ安心しろ。俺がもし死んで、あの世で兄貴に会ったら、アオイさんを置いて死んで、悲しませた罰として兄貴を殴ってやるよ」


 彼はその場でシャドーボクシングをした。それを見てアオイが少し笑う。


「ありがとうね、ライちゃん。私を元気づけようとしてくれて。確かに私もあの人には少し怒っている所があるのよ。私みたいな若くして可愛いお嫁さんを残して早く死んでしまったんだから。私も、もし死んで天国行けたら、あの人を殴ってやるわ」


 彼女もそんな事を言い出した。ライトは笑いながら安堵した。


〈よかった元気になってくれたみたいだ〉


 兄が死んだとき、ライトも当然ショックを受けたが、それよりも彼女の落ち込みようは半端なかった。それほどシンを愛していたのだ彼女は。それに比べて今は大分立ち直ったと見える。


「やっぱり、あの人達は来られないんだ?」

「そうだよ。俺は身内だからだけど、それプラス代表として来たんだ。」


 彼女の問いにライトが答える。アオイのいう「あの人達」とはシンの仕事仲間だった。現在はライトの仕事仲間達でもある。兄弟揃って彼らはある特殊機関に所属していた。だが、その仕事仲間達はある理由で今日の墓参りは不参加だった。


「みんな忙しいのさ。そうだ、飯まだなら一緒に食事しないか?奢るよ」

「ありがとうね。私もまだご飯食べてないのよ」


 義弟の優しい心遣いに彼女は感謝した時だ。ライトの腕時計がシグナル音を鳴り出し赤く光った。非常収集の合図だ。


「ちっ・・・こんな日に・・・」


 ライトは忌々しそうな顔をしながら舌打ちをした。非常収集が出たという事は「奴ら」が出現したのだ。仕事場に戻らなければならない。彼がアオイに謝り、駐車場に停めてある車に向かおうとした時だ。彼女が「私も連れて行け」と言い出した。


「でも今日は兄貴の命日だろ」

「私だってあなた達の仲間なんだから。こういう時こそ役に立ちたいの!」


 渋るライトに彼女がそんな事を言った。アオイもまた、部署は違えどライトの組織の人間だった。彼女は昔から一度言いだしたら聞かない所があった。ライトは彼女そういう特性も理解していたので、彼女の言葉に同意して頷いた。


「よしわかった。行こう」


 アオイを助手席に乗せたライトが運転する車が発進した。特殊防衛機関「G.U.A.R.D.」極東基地に向けて・・・。


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