プロローグⅡ~龍ヶ森湖上空にて~
輸送用飛行機の一室にて、仮眠を取っていたホシミヤ・シンは夢の世界から目を覚めた。妙な夢だった。
「なんだあの夢は・・・・」
2体の巨人が廃墟の世界を舞台に戦っている夢だ。夢にしては妙な生々しさを感じた。彼は仮眠用のベッドから彼は起き上がる。そしてコクピットに向かった。
22世紀になり科学技術力の向上を得て、飛行機の操縦でさえオートマ化されていた。コンピュータによりある程度、簡単な操縦が出来る程だった。時折、こうしてたまにコクピットに行き様子を見に来てやればいい。
コクピットから夜空の雲が見えた。今は上空2000フィートを維持して飛んでるはずだ。
『どうなさいました?ホシミヤ氏、まだ仮眠中では?現在の時刻は2120年5月10日深夜1時ですよ』
コクピットに入ってきたシンにコンピュータが話しかけてきた。予定ではあと1~2時間は寝ていても大丈夫だった。
「いや、なんか変な時間に起きてしまった。寝ているよりこうしてコクピットにいたいんだ」
何故かそう思ってしまった。妙な胸騒ぎがしたからだ。あの変な夢のせいだろうか。
『ここらへんに怪獣は出ませんよ。安心して寝ていればいいですよ』
コンピュータが言った怪獣とは何かの揶揄や比喩などではない。・・・現実にいる存在などだ。一昔前はそんなものは、空想の産物、架空の存在と思われていた。怪獣を見たければ怪獣映画や特撮ヒーロー番組を見ろと言われた時代もあった。しかし、文明の発達による起きた弊害で自然破壊、自然災害の影響により地下に眠っていた怪獣達が目覚め、出現した。昨今ではそれが全世界共通の問題となっていた。
「お前は過去のデータ見て統計上でそう言っているに過ぎない。今まで出てこない場所だってこれから出るかもしれない。」
データだけで楽観的な判断を行うコンピュータに対し、シンがそのように答えた。怪獣が出るなんて一昔前まではただの与太話だったにすぎないのに、今ではある程度の頻度で出現するようになったのだ。油断はできない。
(せっかく、結婚を機に危険な前線から離れられたんだからな。油断して怪獣にやられたんじゃあ意味がない)
彼はある組織の特殊部隊の隊長をしていた。怪獣専門の災害を専門担当とする特殊チームだ。危険な任務が多かった。しかし、婚約相手との約束により、結婚したら別の部署に移動させてもらうと約束していた。その希望が叶い、現在はこのように輸送任務に従事していた。
今日の任務はある物資をアメリカ基地から極東基地に届ける任務を1人で担当していた。シンは今現在の場所をコンピュータに確認する。
「今はどこだ?」
『今現在は日本のA県の龍ヶ森湖上空2000フィートです。』
「龍ヶ森・・・・」
その名はどこかで聞いたことがあった。確か、龍が住む伝説があった場所だ。彼の所属する組織はそういった怪獣・未確認生物の調査も行っていた。組織も一応この湖の調査を行ったが、怪獣らしき生命体が生息しているという痕跡は発見されなかったはずだ。そんな報告書を読んだ事を思い返していた時だ。コンピュータが異常を知らせた。
「どうした?何事だ?」
『トラブル発生!トラブル発生!』
シンは機体のどこかに故障でも起きたとかのと思い、冷静にコクピットのディスプレイ画面にて機体の異常を探す。しかし、異常などどこにもなかった。
「機体に異常はないぞ」
『機体の外です!外に異常が!レーダーが異常を検知しています』
(まさか、怪獣か!?)
シンは周囲をコクピットの窓から見回す。その時、彼の機体の目の前に夜空の雲に大きな穴が開いた。一瞬何が起きたか彼は分からなかった。それが巨大なワームホールだと彼には想像つかなかった。機体の計器がさっきまで正常だったのに、危険の証しである。レッドラインに入っていた。シンはなんとか操縦レバーを握り、機体のバランスを保とうとしたが、操縦がうまく出来なかった。
「くそ!士官学校主席を舐めんなよ!」
士官学校を成績トップで卒業。それは確かに自慢でもあったが、それだけでない。彼は自他共に認める優秀なパイロットだった。前線を離れると決断を回りに伝えたとき、多くの人間が彼の前線離脱を嘆いた。なので、多少のトラブルぐらい自分ひとりで解決出来るはずだった。しかし、今回は異常だ。機体がまったく彼の言うことを聞かないのである。パイロット人生で初めての事だった。
さらに信じられない事が彼の目の前で起きた。その空に開いた大きな穴から巨大な蒼い球体が出てきた。機体のすぐ目の前にあった。
(ぶ、ぶつかる!)
シンはそう思ったが、蒼い球体はどこかへ去っていた。まるでその場から、逃げるかごとく。シンは安堵した。だが、まだ大きな穴は開いたままだ。続けて、その穴から紅い球体が出てきた。シンには、その紅い球体が先ほどの蒼い球体を追って出てきたようにも見えた。今度こそ避けるのは不可能だった。
「だ、ダメだ・・・・!」
そして、シンの乗っていた輸送機はその紅い球体と激突して、爆発した。機体爆発直後、まるでそれが何か合図かのように、その夜空に開いた大きなワームホールは完全に閉じられた。しかし、その光景は彼・・・・ホシミヤ・シンの瞳に映る事はなかった。
シンがその紅い球体とぶつかる瞬間、彼の脳裏には何故か夢で見た紅の巨人が浮かんでいた。
ホシミヤ・シンが操縦していた輸送機が謎の爆発を起こしたこの事件は後に「龍ヶ森湖事件」と呼ばれるようになった。