第1話「紅の巨人(9)」
ライトは自分達が乗り、壊れて地上に向けて落ちていくだけだった戦闘機を受け止めた紅の巨人を見て眼を丸くしていた。自分は夢を見ているのではないかと思った。一緒に乗っているセイジに、眼の前に巨人がいるという事が嘘ではなく、現実だということの確認をする。
「おい、セイジ!お前も見ているか!?あれはなんだ!?」
「・・・・・・・・・・・」
彼の言葉に後輩からの返事はない。(どうした!?)と思いライトはセイジの方を見ると彼は気を失っていた。どうやら、搭乗マシンが落ちるという恐怖とショックで気絶しているようだ。
紅の巨人は自身の掌にあるライト達の戦闘機を見つめていた。ライトもコクピットの窓越しにその紅の巨人を見つめる。ライトの瞳とその紅の巨人の眼の視線が出会う。何故かその紅の巨人を見ていて ライトは「懐かしい感じがする」と思ってしまった。自分でもどうしてそんな風に思ったのか分からない不思議な感覚だった。
紅の巨人は戦闘機を持ったまま歩き始める。ライトは驚いた。彼は、この巨人は自分達をどうするつもりなのかと恐怖した。
巨人はある一定の距離歩くと、手に持ったガードバードBを少し離れた丘の上に優しく置いた。その巨人が自分のマシンに対して取った行動に、そのガードバードBに乗っていたライトはまたも驚いた。巨人は墜落するはずだったライト達を救ってくれたように思える行動だった。
ライト達のマシンを丘に置き終えた巨人は振り返り、その巨体を現在も山間部で暴れ続ける巨大ドブネズミ、グロウスに向けた。巨人は、立ち上がったグロウスと同じぐらいの大きさだった。そして巨人はそれに向け、まっすぐ走っていく。巨人が走る度に地響きが鳴る。
グロウスは自身に向かって歩いてくる眼の前の巨人が自身の外敵であると判断したようだ。突然現れた未知の巨人に対し威嚇し続けて黒い煙も吐いていた。ライトはその異常な光景をコクピットの中で唖然として見ていた。
(ま、まさかあの巨人、あのドブネズミをどうするつもりだ!?もしかして戦うのか!?)
ライトがそう思ったとき、走っていた巨人がその動きを一旦止め、グロウスの眼の前に立った。対峙する巨人と巨大鼠。そして巨人は、いきなり自身の巨大な右腕でグロウスを殴った。
謎の巨人に顔面を殴られた巨大ドブネズミは怯む。続けて巨人は左腕でグロウスの顔面を殴る。またもグロウスは怯む。巨人はそれをドブネズミに対し何度もそれを繰り返す。タコ殴りという奴だ。巨人は目の前の巨大鼠を殴り続けている。
(やっぱりそうだ!?巨人はあのドブネズミと戦っている!?)
ライトは巨人の行動を見て、そう判断した。あの巨人は自分達を救ってくれたどころか、まるで今は戦闘不可能なライト達の代わりに戦っているようにも見えた。
本来ならライトはセイジを連れて壊れた機体から脱出するなり、何らかの行動を取らなければならないはずだが、彼はそれをしなかった。
何故なら、今現在辺り一帯にグロウスが吐き続けた黒い煙のせいで、出来たであろうと思われる黒い霧がかかった状態だったからだ。
あの黒い煙のせいで機体のマシンに異常が発生したのは分かったが、もしかしたら人体にもそれが悪影響を及ぼす恐れがあるのではないかと考えたからだ。ライトがモニターで機体を一通り調べた所、幸い機体は今現在は火災等が起きている訳でもなく、機体が爆発する恐れもなかった。右翼の破損と、黒い煙のせいで飛行不可能という状態だった。
ライトは歯がゆい思いをしながら、ただじっと壊れたマシンのコクピットの中から巨人がグロウスと戦っている光景を見ているしかなかった。
グロウスは巨人に殴られ続けて、疲弊しきていった。鼠は巨人に向かって黒い煙を吐く。だが、それを浴びた巨人は「そんな物は効かない」と言わんばかりにそれでも鼠を殴っていった。
ある程度グロウスを殴った巨人は一旦、距離を取るような形で巨大ドブネズミから離れる。そして、巨人は自身の左右の腕に付いた水色の球体のような部分を互いに触れるように合わせた。そして、その左右の水色の球体が光った。次の瞬間、どこから取り出したのか、巨人の右腕に大きなナイフのような物体が握られていた。ライトにはそれがいわゆる自分達がダガー・ナイフと呼ぶ物によく似ていると思った。
そして、その大きなダガー・ナイフを持った巨人は再び巨大ネズミに向かって走っていく。グロウスは叫びと黒い煙で巨人を退けようとしているが、無駄だった。巨人は走ってグロウスの懐に入り込んだ。そして、グロウスの右胸に向かってダガー・ナイフを刺した。
「ぐわあああああああああああああああ!!!」
断末魔と言わんばかりの大きな絶叫をしながら、巨大ダガー・ナイフで心臓を刺されたグロウスは苦しみ暴れ続けている。巨人はナイフ刺した状態で動かない。その状態を巨人は維持し続けている。
心臓を刺されたネズミは弱っていった。次第に暴れる為の激しい動きも収まっていく。
「す、すげぇ・・・・」
それを見ていたライトは思わずそう呟いた。自分達が最強兵器と考えていたOD弾頭ミサイルでもあのグロウスは倒せなかったのに、あの巨人は簡単に倒したのだ。(あの巨人は一体、何物なんだ・・・・?)そうライトが思った時だ、さらなる驚くべき事が眼の前で起きた。
巨人にナイフで心臓を刺され、苦しんでいたグロウスの体に変化が生じた。グロウスの巨体のその肌がどんどん変色していった。その様子はまるでどんどん干からびていくようにも見える。グロウスはもう完全に動いてはいなかったが、巨人はナイフを刺したままだ。
どんどん巨大ネズミは干からびていく。そしてとうとうやせ細って干からびた状態・・・「ミイラ」のような状態になった。グロウスは巨人に刺され何故かミイラ状態になって絶命した。
完全に相手が死んだと確認したのか、巨人はナイフの刃先をドブネズミから引き抜いた。巨大ドブネズミから巨大ミイラネズミになったそれは全く動くことなくその巨体を地上に倒した。
巨人は目の前の巨大な鼠の亡骸を一蔑していた。まるで相手が本当に死んだのか確認してる様な光景だった。そして紅の巨人はその後、自身を紅い球体に変化させた。
「な・・・・!?」
それを見てライトは驚いた。そして、その紅い球体は空に上昇して、どこかへ猛スピードで飛び去っていった。
「な、なんだったんだ・・・・?」
眼の前で起きた事が信じられず、ライトの頭はパニックになっていた。彼はもう1度ミイラ化して、死んだグロウスを見た。大暴れしていた巨大ドブネズミはもう二度と動く気配がない。
ライトはなんだかすごく疲れた気分がした。
(何が何やら・・・でも、今言えることはあの巨人があの化物を倒してくれた。まるで自分達を助けるかのように)
ライトはそう思った。分かっている事はただそれだけだった。分からない事だらけだった。
第1話「紅の巨人」~了~
G.U.A.R.D.怪獣ファイルNo.001 巨大鼠獣 グロウス
体長40メートル(長い尾は含んでない状態)
体重1万トン
尾の長さ約40メートル
生息地、出現地:主に山間部
グロテスク・マウス、略して「グロウス」と呼ばれる怪獣。ドブネズミがホルモンバランスの変化により突然変異し巨大化してしまった怪獣。
人によっては「Bマウス(ビッグマウス、ブサイクマウス)」と呼ぶ場合もある。
これまで同種族別個体が何度も日本だけではなく、海外においても出現の報告されている。
そこまで強い怪獣という訳ではない。
2121年5月10日の日本のB県の山間部に出現したグロウスは機械を異常状態にする「黒い煙」を吐き、最強兵器とされる「OD弾頭ミサイル」が効かない固体であった。これはこれまでの個体に見られない特性である。
山間部にて暴れるグロウスは、その迎撃に出撃したG.U.A.R.D.極東基地所属の戦闘機を2機戦闘不能状態にした。
そしてその後、突然出現した謎の「紅の巨人」と戦闘後、ミイラ状態にされて絶命した。
グロウスが何故、突然強くなったのか、紅の巨人は一体何者なのか、現在調査中である。