幕間の少女
文化祭、それは学生のイベントの中で最大の自由度と人気を誇るモノである。
修学旅行のように、教職員にあれやこれやと制限されることも少なく、普段は顔を付き合わせることのない、他のクラスの生徒とも交流することも出来る。
年に一度しかない学園全体のイベントを前に、どの生徒もどこか落ち着きのない様子だった。生徒によっては、一ヶ月も前なのに出し物の準備にあぁだこうだと、意味もなく残っては、雑談という名のミーティングを行っていた。三年生にしてみれば、高校生活という人生最大の青春の空間を旅立つ前の、最後のガス抜きである。俄然、力が入るのだろう。
だが、どの学園にも馴染みきれないはぐれ者というのは居るもので――そんな狂騒にも似た静寂を前に、少女は一人、屋上に立っていた。
校庭からのサッカー部のかけ声や、体育館のバスケ部の声に混じって、小さく演奏が聞こえる。曲は『翼をください』
屋上で歌を歌うのがストレス発散だった少女は、上機嫌で耳を傾ける。お気に入りの場所で行う日課に、今日は演奏がついているなんて!
気分が乗ってきた少女は、鼻歌気味に演奏に合わせる。誰にも気を遣わず本当の自分をさらけ出す。ここは彼女にとって、彼女だけのライブステージだった。