5話
諸事情により、丸一日遅れたことを謝罪申し上げます。
「で、結局入ってもらえずに、ノコノコとあたしの所にやってきたと」
結局の所、勧誘も日向さんからは良い結果は得られず、バンドにいたメンバーに声をかけることになった。だが結果は言い返事がもらえず最後まで残っていた姫路に頼みに来ていた。
「ていうか、よく一日で殆どメンバー集め直してきたなお前。先日までのやる気なしが」
本来代打でいた人間なのだからやる気も何もない。わかっていて嫌味たらしく笑みを浮かべる玲音を小突いてやる。
「いや断られたんじゃなくて、『ちょっと考えさせて』だから……あと俺は玲音とやる気がなかっただけだ」
「変わんないから、断る時の代名詞じゃんか……それ」
姫路は「あきれた」と手元に抱えていたギターを壁に立てかけ、大きく沈むように息を吐き、こちらを真っ直ぐ見つめ苦笑いした。
「別にいいよ。やっても」
「いいのか?」
解散の原因になった張本人がメンバーとしているのに、参加の言葉が返ってくるとは思ってもみなかった。
真意を推し量ろうと探りを入れる様子で姫路を見るが、どうにも何を考えているかが読み取れない。
姫路は不愉快そうな態度で口角を上げ、玲音の方に顎をしゃくった。
「こいつだって、身内しかいないとこで問題起こさないでしょ」
「ひでぇ言いよう」
大げさに肩を落とし溜息を吐く玲音に、姫路は自業自得と言いたげな表情で睨み受ける。
玲音はさらに大きなため息をつき返す言葉もなさそうに苦笑いをした。やはり今回の解散は痛い目として効いているのだろう。
以前から玲音は、周りの女生徒などに声をかけていて近くに女の子の姿がない日を探すのが困難と噂されるほどであった。だがそうして様々な娘と遊びほうけているが、チェックは細かい方で彼氏持ちなんかは、かなり避けていた。
そんな自分自身の中に確固たるポリシーがある彼だ、しばらくはそう女遊びもしないだろう。
姫路は一度バンドを抜けた手前、戻るというのが恥ずかしかったのか、頭を乱雑に掻くと不貞腐れたように呟いた。
「あたしは、あたしの邪魔されるのが嫌なだけ。……別にこいつがどこで女漁りしようが、どうでもいい」
「よかったな、相方公認で」
「代わりに大事なモノ失った気がするけどな」
「でメンバーは決定?」
「あぁそれなんだけどな……」
面倒くさそうに唸り声を上げ、玲音が頭を掻くと少し言いづらそうに――
「俺、抜けるわ」
「そう」
「……」
「……」
「……誰か、止めろよぉおぉぉぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
しばしの沈黙、予想と展開が違ったのか息を止めたように――実際に息を止めて――静止していた玲音は、息苦しそうに顔を真っ赤にしている。
とうとう耐えられなくなったのか、大きく息を言葉と一緒に吐きながら、廊下を出で走り去っていった。
「えぇ……」
「うわ、面倒臭ぇ」
理由も言わずに走る玲音の背中を見送くる。しばしの間玲音の大声が聞こえ、ようやっと声が聞こえなくなったころ、姫路の方に向き合った。
「もう一度言うけどいいのか? 玲音ももういないけど」
先ほどまでは玲音が居たがそれも抜け、元居たメンバーがいない新規のバンド――それも文化祭まで限定の即興バンドに乗る義理なんて姫路にはない。
姫路は彼女らしくないキョトンとした表情――鳩が豆鉄砲を喰った、という言葉をそのまま表したらこうなるであろう――をしたかと思ったら、すぐいつもの斜に構えた笑みを浮かべた。
「別に、さっきも言ったけどあたしは邪魔されるのが嫌なの。玲音となんて何時だって出来るしね。まぁ元はといえば、あたし等のバンドが解散したからこんな面倒なことになったんだし、尻拭いと考えれば関係ないこともないよ」
そういって玲音の去った方を遠く見つめる表情は、先ほどまでのニヒルなものとは違い、とても穏やかなものだ。
初めて見る女性らしい表情に少しばかりドキッとしてしまった。
「まぁ玲音は使い勝手がいいから、いろいろ頼んで裏方に回ってもらえばいいし、最悪あたしが歌えばいいんだろ。明日の放課後から練習に合流するから、部室でよろしく」
姫路はおどけた様に肩をすくめると、荷物まとめて部室を後にした。
「……なんか色々あって疲れたなぁ。てか、俺が玲音に言うのか」
結局、昼食も取ることが出来ず、授業開始の予冷に引っ張られるように、肩を落としながらフラフラと教室へ足を向けた。
………………
…………
……
翌日、冷静になった玲音に裏方の役目を押し付けることに成功した。
そして現メンバーである梓、キョウ、姫路に放課後、軽音部室に集まってもらいミーティングを行なうことにした。
部室を開けると、既に各々部室に着いていたようで黙々と楽器のチューニングを行っていた。
梓だけはチューニングが終わっていたのか、制服のブレザーを羽織り、残暑が厳しいのかブラウスの胸元を開け、しかし嫌らしくない程度に着崩しかったるそうにしている。
普段不良然とした態度をしつつも、制服をキッチリ着こなす梓らしからぬ様子に、物珍し気に目を見開いてしまう。そんな露骨な視線に、梓は実に不愉快そうに目を細め、実体があればそれこそ射殺してしまいそうな視線を影冶に送り返した。
「見んなよ」
「いやっ、それは、確かに今の状況的に否定は出来ないけれども……、お前が着崩すなんて珍しいなと思って……というか、ホントに暑いなこの部屋。クーラー付けてないのかよ」
どうにもこのままでは蒸し焼きになってしまいそうなほどに、熱のこもった部室に不満を述べると、姫路が心底迷惑そうな表情を向けてくる。
「おまえ、せっかくみんな思っても言わなかったことを言いやがって、元々物置の場所にエアコンなんて付けれるわけないだろ。あぁぁあああ! もう意識したら暑くてたまらなくなってきた! どうすんだよこのバカッ。こんなんじゃ集中なんて出来ないじゃんかよ」
苛立たし気に席を立ち、ほぼ咆哮にも近いような声を上げた姫路。
だがすぐに体力を使い果たしたのか、窓下の日陰に倒れこみように寝転がり、「……うぅぅ」と唸り声を上げた。
そんな姫路を見てキョウは面白いものを見たような様子で、肩をすくめて困ったように笑うと、何か良い案でも思いついたのか拳を打った。
「なら第三音楽室なんてどう?」
たしかにあそこは人の出入りも無ければ、空調設備もちゃんと備わっている。練習をするのにはもって来いな環境だった。
「そうだな、切りもいいことだし第三音楽室に移るか」
この時、俺達の行動はかつてないほどに迅速で、今後の音合わせに希望が持てるほどに息の合ったものだった




