表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/28

23話

 梓が来なくなってから一週間が過ぎ、文化祭当日まで秒読みに入り、学校中が浮ついていた。

 姫路も最近、めっきり元気な様子がなく、どこか上の空といった様子で、全員がそれに引っ張られていた。


「今日も来なかったね」


 ドラムの手入れをしていた鏡花が、ふと窓の方を見た。外はあいにくの曇り空だったが、遠くの住宅街の方は、隙間から夕日がさしていた。


「どうすんだよ影冶。このまま行くのか?」


 玲音の問いには、もう答えは出かかっていた。

 音を合わせるのにも、これ以上梓が動くのを待つのは限界がある。

 きっと梓の方から動いてくれることはないだろう。

 それでも何も返せないでいると、姫路がおもむろに席を立ち、鞄を背負った。


「行こう」

「行こうって……」

「梓の所、皆で行くんだよ」


 そう言って、部室を出る姫路に、俺たちはただ、慌ててついていくしか出来なかった。


「ほら、さっさと用意して」

「いや、いきなりでついていけないって」


 梓の家に着くなり、ギターを取り出して演奏の準備を始める姫路に、俺は戸惑いを隠せなかった。するとその様子に痺れが切れたように、姫路は目を吊り上げて睨んだ。


「梓に聞かせるんだよ。今出来る全部、ぶつけてやる」

「……! うんッ!!」


 姫路に返すように首を頷かせた葵が、玲音たちの方に駆けて、玲音のベースのセットを手伝っていく。まるでこのときを待っていたような動きの良さに、俺だけが戸惑っているようだ。


「オイ、影冶! 早く準備しろよ」

「お、おう」


 玲音の声に、いまいち歯切れのよくない返事を咄嗟に返してしまうと、呆れたように息をつき、近づいて思い切り蹴りを入れてきた。加減のない一撃に腿が痛むが、それだけ起こっているということの裏返しでもあり少し驚く。


「~~。この状況見てまだ解ってないのかよ。もう俺たちは待ちくたびれたんだよ。いつまでも、ウジウジしやがって」

「俺が!?」


 俺からしてみれば、皆の方が諦めて落ちてたように見えてたのに……。俺の方がそう見えてたのか?


「そうだよ。来ない相手の事なんか、さっさと切っちまえばいいのに、いつまでもハッキリしないままで居やがって。言いたいことがあるなら、面と向かってさっさと言っちまえばいいんだよ。伝えたいこと全部、そんなタイミング今しかないだろ?」


「伝えたいこと、全部……」

「早乙女! 早くしろよ!」


 玲音の言葉に自分の想いを考えてみようとすると、姫路の怒鳴り声が聞こえた。声に反応して、演奏できる状態にすると、全員で目配せをした。


   §  §  §


 時計を見れば、もう夕方の六時を指していた。

 まだ暑さは残るものの、外は陽が完全に落ちてしまっている。


「また、行けなかった」


 バンドに顔を見せなくなってから、もう何日が過ぎただろう。三日から先はむなしくなって、数えるのをやめた。


「ま、もう行っても、って話だけどな」


 何日も間が空いたんだ。きっと城崎あたりが私の代わりをやっているはず。アイツなら腕もいいし、きっと私よりも要領よく出来てるだろう。


「もう何もかも投げ出したいよ……」


 影冶が作った歌詞を見た。

 恥ずかしくて目も当てられないような物だったけど、全力な必死さが伝わってきた。


 ――恋の歌だった。


 その後の、雪菜の歌詞も……。

 雪菜と二人で話す前から、なんとなく影冶への想いは知っていた。

 影冶は私の家に来ると、音楽にずっとのめり込んでいたから、気付かなかったようだけど、雪菜はずっとアイツの事を見て、追っかけてた。

 でも、中学になって教室辞めてから、全く会わなくなって、だからもう一緒になることなんてないと思っていた。


「でも丁度よかったのかもな」


 先日、母さんから来た電話。

 姉さんの海外留学の、おまけに舞い込んできた話。

 かつて逃げた場所から降ってきた、舞い戻るための大きなチャンス。

 それは中学生の頃の私が、耐え切れ無かったものなのに、この一か月、皆と演奏が出来て……。


 本当に、本当に――


「楽しかったんだ」


 それにこの間、雪菜に呼び出された時の宣戦布告。

 あの時、私は雪菜の目を見ることが出来なかった。

 うらやましい、と思った。まるで影冶が私の物だったみたいに、ずっとそばにあって手を出さなかっただけのように言える彼女が……。

 影冶が姉さんと付き合っていた時があった。その時、すら私の近くにあったと思ってる雪菜が、まっすぐ私に影冶が欲しいといえる姿がうらやましかった。

 その時の会話が頭をよぎった。

正直こんな誰も読んでない物を書き続けるモチベーションなんてものは、とっくに尽きてますがケジメとして書ききる所存であります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ