22話
久しぶりになります
演奏が終わり、いつもより早めの片づけをしていると、自分の片づけが終わった姫路がこちらに来る。
「早乙女、さっきの演奏なんだ」
いつもの不機嫌な様子できた姫路は、正真正銘怒っています。といった様子で来る。何が言いたいかは、自分でも何となくわかっていた。
「ごめん」
「……手元の調子が狂うんなら、演奏中に余計なことは考えるな。今ここにある演奏に集中してよ。謝るくらいなら、もっと上手くなって」
調子が狂ったのか、勢いを落として弱く言い終えると、そのまま部室を出ていく。
何も言い返せないまま、ただ姫路が出て行った廊下を見つめていると、背中を玲音に強く叩かれた。
「ま、そう落ち込むなよ。調子が悪い日なんて誰にだってあるさ。だって現に、雪菜の奴だって全然集中できてなかったじゃんかよ」
「あいつが?」
俺には落ち着いてるようにしか見えなかった。今さっきのやりとりだって、特にこれと言って何も変なところは無かったが。
分からなかった。と、首を傾げると、呆れたように首を引く。日本人離れした顔のこいつがやると、様にはなるが余計に腹が立ってくる。本人もそれが解ってやってるのだろう。
「ずっとキョロキョロしてただろ? 普段ならそんなことしない。音を聞いて判断してるはずだよ。ライブでもないときは、自分の手元から目、離そうとしないんだ」
そう玲音は真面目な顔で、ベースを弄りながら言った。
「結構見てるんだな、お前」
「お前意外と、というか普通に口悪いよな」
ジトリと、呆れたような瞳でこちらを見てくる。俺自身、良い人ぶった記憶はないが、どうもよく勘違いされる。別にどうでもいいが、それでも勝手に良い人と思われて、勝手に嫌な奴と思われるのは気持ち良くない。
不機嫌です。といった様子を隠す気もなく玲音にぶつけていると、悪く思ったのか誤魔化すように笑う。俺はその様子に溜息を吐いた。
「お前片付けないのか」
「へ?」
「いや、お前は帰らないのか?」
「もう少しやって行くよ。舞台には上がらないしな」
玲音はベースを指さすと、そう言って寂しそうに撫でた。
やっぱり、抜いたことを根に持っているのだろうか?
「…………」
「……なんだよ」
「いや、その、なんていうか……、やっぱ外したの悪かったかなって、元々お前のバンドだし」
「そんなことはねぇ、お前……、オレに言わせんなよ」
構えたギターを膝に落とす様子は、呆れたと言わんばかりだ。
「そんなの、片桐と姫路誘った時点で、なんとなく察したっつーの。穴埋められたんならいいし、来年もなくはないしなー」
「次はやらないからな」
「しねぇよ」
「……そっか」
漏れた言葉の意味は、自分でも解らなかった。
「なぁ、片桐……まぁ会長の方もなんだけどさ、やっぱり海外なのか?」
「弥生さんはそうだって、俺も朝聞いたよ。梓は……」
やはり卒業後は、留学するのだろうか?
「どうだろうな」
「ま、そっちはそうか。まぁ、あと一年あるわけだしな」
そう言って玲音は機材の片づけを始めた。
「なんだよ。演奏していくんじゃないのか?」
「そんな気分じゃなくなった。たまには遊びに行こうぜ」
そうして勢いのままに押してくる玲音に、流される形で俺たちは部室を後にした。




