21話
最近二度投稿しないと投稿ミスをします。
「あの娘、今日は休むって」
翌日の朝、部活のある日となり、意気揚々としていた俺を挫いたのは、弥生さんだった。
大きく息を吐きながら話す弥生さんは、どこか呆れているようにも取れる。姉妹喧嘩でもしたのだろうか?
「別に、今日の部活どうすんだとか、言うつもりはないけど。なんかしたの? 喧嘩?」
「毎回そうやって、私が何かしたみたいに言わないで……。そっちはどうなの? 上機嫌で、なんかあった?」
「オリジナル曲が完成してね。もう今日からできるってとこなんだけど……。悪いんだけど、コピーを渡してもらってもいいかな」
「悪いだなんて、ちっとも思ってないくせに」
そういって渡した譜面を受け取ると、家に戻っていく。
しばらくすると、朝の支度を終えたキョウが後ろから来たので、梓のことを伝える。
キョウはさほど気にした様子は見せずに、流すように頷く。
「渡してきたわよ」
家から弥生さんが戻ってきて、俺たちは学校へと足を向ける。
不意に、誰かに見られているような視線を感じ、周囲を見渡す。梓の部屋があるだろう二階の窓も見るが、梓の姿は確認することができなかった。
通学の道中、他愛もない会話を重ねていると、弥生さんが思い出したかのように、顔に指を当てて呟く。
「そう言えば、卒業したら海外に留学することに決めたの」
「へぇ、すごいな。どこに行くんだ?」
何気ない風に言う事実にキョウと二人して驚きを隠せないでいると、弥生さんは楽しげに笑う。
「オーストリアにでもしようかなって、最初はフランスとか良いかなとも思ったんだけど」
「ということは、音楽留学か……。なんか意外だな」
「どうして?」
何気なしに返した言葉に、食い気味ともいえる速さで返してくる姿に、少し気圧される。
別段理由がないので、どうしてと返されても答えなんてない。
「いや、趣味でやり続けるとばかり思ってた」
そんなに力入れてるようにも見えなかったし、とは言わない方がいいだろう。明らかに不機嫌ですと言った表情で睨み付けてくる弥生さんに、口をつぐむが、時すでに遅し。
「確かにね、最初は母さんに無理やりやらされたことだけど、それだけじゃ十何年もやり続けてないわよ……私があの子に勝てるのは、もうこれしかないのよ」
微かに、聞こえるか聞こえないかといった声で呟いたその表情は、どこか悔しそうなものだった。
§ § §
梓が休みのため、急遽玲音にベースをやってもらい、ながら練習をしていく。
玲音の演奏は、梓のようにフォローをしてくれるような上手さや、導いてくれる安心感は無い。
でもさすがはバンドマン。確かな安定感と、しっかりとした骨太さを感じる。
「こんな感じでいいのか?」
演奏が一通り終わり、玲音が尋ねてくる。自分の手元を確かめている様子は、最低限はやってやった。とでも言いたげだ。
「上等」
世辞でもなんでもなく、確かに感じた通りに返すと、満足そうに笑って返事をしてくる。
他のメンバーも概ね同様の感想を持ったのか、ピリピリとした様子は無い。葵に関しては驚いた様子で、手を叩き始めた。
「すごい! 城崎君もギター弾けるんだ。しかもすごい上手!」
「軽音部長は伊達じゃないって、てかこの中じゃバンドに関して出言えば、二番手だと思うぞ俺」
「そーだな」
そういって自慢げに周囲へ同意を求めてくるが、面倒そうなので適当に反応しといてやる。まぁ実際バンドというか、人付き合いに関しては、玲音が一番得意なのは間違いない。基本的に、浮気性なことを除けば有能なのだ。
「んだよ、冷てぇな。来年は三年なんだから、文化祭に全振り出来るのは今年なんだぜ? この時期には、やれ志望校は? 就職先は? 将来は? ってのすら過ぎてんのによ」
「そうそう三年生と言えば……会長、留学するんだってね」
玲音が不満げに口を尖らせると、葵が思い出したように手を叩いて言う。玲音や姫路は少し驚いた様に、納得といった様子で相槌を打った。
「まぁあの人なら、そのくらい簡単だろうしな。頭もいいし、見た目も運動神経も」
「音楽も……な」
玲音の言葉に足すように、姫路が室内に置かれているピアノを――そこにいつも座っているだろう、誰かを見つめて言う。その目はどこか悲しそうに見えた。
……
…………
………………
「どうだ、時間ももう少しあるしもう一周くらいやってから帰るか」
そう玲音に言われ時計を見ると、時刻は四時半。確かに片づけの時間を考えれば、ちょうどいい感じの時間になるだろう。
賛同してもう一度頭からやろうと準備をしようとすると、姫路が待ったをかけてくる。
「このあと私、用事があるから最後の一曲だけにしてくんない?」
別に変なところは何もなかった。だけど、さっきのピアノを見る目を見た後だと、どうにも気になって仕方がない。
「用事って?」
だから口に出てしまった。姫路は面倒臭そうにしてこちらを見てくる。
「何だっていいじゃん。用事は用事だよ」
変に食い下がったように見えたのだろう。姫路は苛立った様子でこちら見て、声を荒立ててきた。
これ以上何か話そうにも、何を言っても逆効果だろうと言葉を選んでいると、キョウが慌てたように間に入って、演奏の準備を促してくれた。
「影冶って偶に本気でデリカシーというか、そこんとこの配慮がなくなるよな」
そう嗜めるように注意してくるキョウに、俺はグゥの音も出なかった。
俺からしてみると、姫路の切れどころのラインがいまいち解りづらくて、どうにも会話がしづらい。
演奏がの準備が終わり、お互いの呼吸を整える音が聞こえる。
怒らせてしまった姫路も、さっきのやりとりが、全くのウソであったように感じる程、落ち着いた様子でギターを手に周りを見渡している。その姿を見て、俺はどこかでコイツには敵わないな。と思ってしまった。
キョウのドラムを叩く音が鳴り、演奏が始まる。
俺と梓の音に乗るように、姫路のギターの音が乗る。演奏の雰囲気自体もいつもと変わらず、むしろ温まって調子が良いくらいだ。
葵の歌声も良く出ている。バンドとして上手く納まっている。
納まってしまっている。
そのことを意識すればするほど、俺の性根の部分で黒い靄のようなものがかかっていくのを感じた。
次稿から更新速度落とします。




