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20話

「どうだい? バンドの方は順調?」


 ガランとした店内にで、一人優雅にくつろぐ灰山さんが、話しかけてくる

 翌日全員に話を通した俺は、バイトがあったため、その場を後にした。

 本当はすぐにでも集まりたかったが、バイトはバイトだし、焦っても仕方は無い。

 灰山さんは相も変わらずといった様子で、コーヒーを嗜んでいた。どうにもこの女性はそこらの現代男性よりも、ダンディズム漂う佇まいが似合う。


「まぁ、ようやっと軌道に乗ったというか、後は走り抜けるだけというか」


 と頭をかいて言うと、灰山さんは楽しそうに笑って、コーヒーのカップを殻にして、こちらに見せて追加を頼む。カップを下げてコーヒーの用意をしていると、彼女は遠い目でカウンターの隅を見つめていた。


「にしても、羨ましいね」


 新しいコーヒーを出すと、こちらを見る。その視線はどこか、何かとても眩しいものを見る様に細められ、声も自嘲するようなものだった。


「別に、ただの即席バンドですよ」

「一人じゃバンドとは言わないだろ? 即席でそれだけのメンツが揃うことが、だよ。この前の女の子……。アオイちゃんだっけ? 彼女との話、丸聞こえだったぞ」


 楽しそうにからかい声で、葵と座った席を指さす灰山さんに、少し恥ずかしくなる。聞こえてたのか。


「あんな可愛い子に、音楽やってる幼馴染たちと、雑務を引き受けてくれる友達がいるなんて、中々あるものじゃない。それに、城崎玲音と姫路雪菜……。この二人って、前に新都で演奏してたことあるだろ? 全く都合が良すぎるくらいだよ」


 ホントに聞かれてたんだな。……にしても


「あの二人のこと知ってるんですか?」


 確かに二人とも、路上演奏してたことがあるって言ってたけど、それだけで知られているってのは、なんか腑に落ちない。

 灰山さんは、「新都なんて高校生くらいじゃ、ほとんど行かないもんな」といって頷く。


「まぁね、新都でストリートミュージシャンを見るのが好きなら、知ってるんじゃないかな? 三、四年前くらいから現れて、大人に紛れてやってるんだ。目立つだろ? それに名前も分かりやすいしね」

「なるほど」


 演奏も上手かったしね。と、コーヒーを飲む。


「君がコーヒーを入れるも、上手くなったね」


 そう言って笑いかけてくれる姿に、お礼を言うと精進したまえ、と冗談交じりの態度で返してくる。


「世の中一人で何でも達成できるというがね……、実際は結果だけ見て、達成できてる気になっただけなんだよ。人と関わって初めて完成するんだ。過程をすっ飛ばして得た結果なんてのは、大抵、碌な結末をもたらさないんだよ」

 俺ではなく、自分に言い聞かせるように呟くその表情は、ひどく影のあるものに見えた。

 しばらく下を向いたままでいた灰山さんは、店の時計を見ると、「そろそろお暇しようか」と席を立った。そのまま会計を済ますと、そのまま出口へ足を向ける。


「ま、今ある境遇は、ただの偶然の集まりじゃなくて、君であったからこそだ」


 そうこちらを一瞥する瞳は、ここではないどこかを見ているようだった。

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