19.5話+0.25話 望まぬ転機
電車に乗ってからは、お互い優等生らしく期末テストの山張りについて話し合ったりしていると、二十分ほどで葵の駅に着き、そのまま駅を出る。
そのまま駅を出てしまったからと、家まで送ると五分もせずに着いてしまった。
「結局家まで送ってもらっちゃったね」
「いいんだよ、別に。じゃあ明日」
そう言って、来た道を戻ろうとすると、門越しに少し大きめな声で呼び止めてきた。
その表情は、少し慌てた様子で何かを思い出したようだった。思い返してみれ
ば、結構おっちょこちょいなのかもしれない。
「あのね、今日の事で一つお願いがあるんだけど……」
もじもじしながら、言う葵に喫茶店でのやりとりを思い返す。何かあったのだろうか?
「バイトの件。なんだけどね」
「あぁ」
そこまで言われて、彼女が言わんとしたことが解った。
「別に言い触らすようなことでもないだろ? 問題ないよ」
「ありがとう」
どうやら当たりのようで、ホッと胸を撫で下ろすような動作をして、葵は今度こそ別れの挨拶をした。
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――十月九日水曜日、二十二時二十三分。
『あら、梓? 起きてたのね、ちょうどいいわ』
「母さん、どうしたの? こんな時間に」
『来年、弥生が海外受験するのはもう聞いたかしら』
「いや。そうなんだ……」
『そう、それでなんだけど相手側から、妹さんもどうですか? って言われたのよ』
「えっ?」
『別に、すぐ大学ってわけには行かないわよ? こっちの卒業もあるんだし。でもね、そこを留学からの、進学って形でもいいって話になったのよ』
「私っ、なにも聞いてない」
『あら、別に悪い話じゃないでしょ? それに音楽をやるんだったら、これはチャンス以外のなにものでもないのよ。それとも、やりたくない? 聞いてるわよ、音楽室に残ってピアノ弾いてるって』
「それとこれとはっ、私が知らないとこで、そうやって決めて、訳解んないっ……。どうしたいんだよ」
『私はただ、あなた達に後悔してほしくないだけよ。やりたくないのなら、スッパリ関係を断つのも手だと思うわ。……音楽ってそれだけのものを不意に出来てしまうものだもの」
「なんで、やるかやらないかなんだよ。なんで……」
『……別に今電話で決めろなんて言う気は、更々ないわ。冬休み、それまでに決めておきなさい』
「なんで、好きにやらせてくれないんだよ……」
『………………』
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