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 クリスマス。

 それは全ての人に平等に幸せが贈られる日。

 恋人たちには、永遠に等しい恋の祝福を。

 家族には、永遠の愛の幸せを。

 そして子供達には、夢のプレゼントを。

 そんな世界規模で人々が幸福に包まれる日に、少年は不景気そうな顔をしていた。

 少年の街は都市から少しズレた所にあった。

 少し歩けば山に入ってしまう街は、都市部の華やかさから少し離れているため好奇心旺盛な少年にとっては少し息苦しい、退屈な場所だった。

 それでも山の中に入れば、きれいな川や美しい小鳥の歌声が聞こえる街は思い出の場所でもあった。

 そんな退屈に満ちた毎日に、嫌気がさしていた少年の心を慰めるのにはクリスマスというのは絶好のものであろうはずだった。


「梓ちゃんの演奏会は今日しかないんだから。クリスマス会は明日やればいいじゃない」


 少年を見かねた母親が戒めるようになだめるが、少年にとってはクリスマス会も今日しかないものだった。

 クリスマスを過ぎてしまえば、そのイベントはクリスマス会とは関係もない、それはただの退屈なお茶会だ。

 だいたい演奏会をクリスマス当日に開催するのがおかしいのだ。せめてイヴにすれば、演奏している人間も、どちらも楽しめるというのに。


「梓ちゃんとクリスマスに一緒に居たかったんだよね」


 そういう気持ちは無いこともなかった。ただ親友の言い方に、何か別のものが含まれているように感じた少年は、ついムキになって否定してしまった。

 そもそも少年は少女の演奏している姿を見たことがなかった。彼女の一つ上の姉は、周りの大人から天才と言われているのを聞いたことがあった。

 だが姉が天才だから、その妹も天才なんてことは無い。


「でも弥生ちゃんの隣でいつも頑張ってるんだから、きっとすごい上手だよ」


 親友の気遣いの言葉に、少年は押し黙るしかなかった。

 演奏会が始まり、いよいよ喋ることもできなくなった会場で、少年はただ少女の出番を待ち、下手な演奏をした時にどうバカにしてやろうかと瞳を閉じた。




………………


…………


……




「起きろよ。そろそろ出番だよ」

 親友に揺らされ意識を会場に向けると随分眠りこけてしまったようで、演目も終盤に差し掛かっていた。

 どうやら次は少女の出番のようだ。

 少年は崩れた姿勢を直すことなく、視線を未だ終わらない演奏会の舞台上へ送る。

 静かに黙って聞いていなければならない演奏会は、年頃の少年の気質には合わず、唯一の慰みである少女の演奏を聴き、扱き下ろす言葉を考えること以外には特に興味などなかった。

 しばしの静寂の後、少女の名前が呼ばれ、それに続くように出てきた少女の姿を見て、少年は少し動揺した。


「きれい……」


 一緒に来ていた少女が、溜息を吐くように呟く。少年も同調したい気持ちにかられた。

 切れ長の釣り目に、長い黒髪、周りよりも少し高めの身長に、不満そうな仏頂面。

 少年が耳慣れた少女の名の後に出て来るのは、いつものイメージと確かに類似はすれど、同じ人物には到底思えなかった。

 いつも不満そうに見えるその顔は、とても澄んだ真剣味を帯びた表情で、切れ長な釣り目は少女の幼げな顔に、大人びた雰囲気を感じさせる。

 よくケンカをし、泥まみれにしている黒髪も、遠目からも手入れが行き届いているのが伺え、ステージの照明で照らされた彼女の雪のように白く発光しているようにさえ感じる肌も、髪に合わせた黒いドレスとのコントラストで美しさを引き立たせていた。

 少女の演奏が始まり、音色が響き渡る。

 会場に静かに湧き上がった。

 少年はその騒めきすらも五月蠅く思えるほど、少女の姿に見入っていた。

 美しく整ったその少女の顔には、何時もは見たことのない、何処か満たされたような顔が浮かび、心なしか力が入っているように見える。

 そんな少年に見せたことのない表情を、少女にさせる音楽の存在に、少年は心から嫉妬し、羨望した。

 気づいた時にはもう手遅れだった。

 少年は母の服を引っ張り、言葉を紡いでいた。


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