8 予感
目覚めのいい朝だった。
アクワは、傍らに寝ているテルラを確認して、昨夜のことを思い出した。
「あぁ、私また熱を出したのね・・・」
アクワはテルラを起こさないように気を付け、ベッドから離れた。
いつもより体が軽い。
偽りの朝日が射し込む窓に近づき、広がる町並みを眺める。
どれだけ時間が経ったのだろう。
気が付くと、唇から言葉が零れていた。
「長き眠り後 我を起こすもの 現れ出でよ
その輝きは 始まりにすぎず 命の全てを持ち 彼方に受け継ぐ
待ち人は 汚れなき希望なり
今 現れし者は 残されし者の救いとなる流れ
迷うことはない
心思うまま 汝らは動く
それこそが 真の始まりとなろう・・・・・・」
我に帰ると、隣にテルラがいた。
大きな瞳を見開いてアクワの顔を見つめていた。
「アクワ、今のは何? 何を言おうとしたの? 何か感じたんでしょう?」
その目は縋るようにアクワを捉えた。
だが、アクワは軽く首を横に振るしかなかった。
気が付くと言葉を紡いでいただけで、考えて言葉にした訳ではない。
「ごめんなさい。わからないの。何も・・・・」
テルラは俯く。
だが、しばらくして顔を上げた時には、いつもの笑顔だった。
「意味がわからなくても、悪いことではないっていうのはわかるわ。それだけで充分よ。そんなに気にしないで。大丈夫、大丈夫。」
元気に手を振りながらベッドまで戻り、
布団を整えるテルラを見て、アクワはそっと微笑んだ。
何かいいことがある。
それはいつなのか、何なのか。
わからなくても確信できるだけで、今は満足だった。
「テルラ、ご飯もここで食べていくでしょう?」
「もっちろん!」
テルラは元気に答えた。
アクワは早速その旨を下に伝える。
楽しい一日が始まる。
アクワは、そんな予感がしていた。