7 神になり損なった男
「週に二日も来るんだって、新しい先見。」
またもエナマから逃げてきたテルラが、アクワに言った。
「お父様に聞いたの?」
朝からの熱で寝込んでいるアクワは、だるそうにそう言った。
「まさか。お父様はお忙しくて、なかなか会って下さらないわ。だから、瞳おじさまに聞いたの。」
「瞳おじさまに? お仕事の邪魔になるわよ。おじさまも微妙なお立場なんだから、考えて行動しなくてはいけないわ。」
「はーい。」
まるで母子のように二人は会話する。
それはごくたまにしかないが、見る者を混乱させる。
姿を見せない母ノクスのように、アクワが見えてしまうのである。
そのせいか、父もおじもなかなか会ってはくれない。
アクワの姿は、母よりも父に似ているというのに。
瞳=G=ガーランド。
彼は『神』になり損なった人物である。
これは『管理者』たちの見解であって、本人からしてみれば『神』に祭り上げられずに済んだ幸運な人物、になる。
一つ間違えば彼こそが『神』と呼ばれ、高くそびえ立つ『塔』に縛られていたのかもしれなかった。
それだけ『神』・ルーカスに近いところにいた。
瞳は、ルーカスのただ一人の親友であった。
戦争のため家族と離れ離れになり、その存在を失った瞳にとって、ルーカスとその家族だけが心の拠り所となっていた。
それは自由のないルーカスたちにとっても同じだった。
瞳=G=ガーランド。
今の彼は『塔』の中の医療チームの長であり、そして、囚われ人でもあった。
ルーカスのように・・・・・。
機械だけが目立つルーカスの部屋で、金髪の医師は診察という名の休息をとっていた。
「少し気が紛れたようだな。いつもと顔が違う。」
「そうか? ・・・久し振りにいい目をした者に会ったんだ。本当、いい表情をしていたよ。」
少年のようにルーカスは笑った。
瞳は目を細める。
笑うことの少なくなった男に、昔と同じ笑顔を取り戻させたのは一人の青年。
「お前がそこまで言うとは、今度の先見はなかなかのものだ。今まで何人となく追い出してきた奴の言葉とは思えん。」
「そういう瞳こそ、顔が笑ってるぞ。会ってみたいんだろう?」
意地悪そうな笑み。
それは若い頃のルーカスのよく見せた表情だった。
そして、顔を真っ赤にしながら取り繕おうとしている瞳も、若い頃に戻っている。
一つ大きな咳払いをし、瞳は答えた。
「お前が待っていた、未来を作る人物。私はそう思っているからな。もちろん会いたいさ。ただ、あの二人がどう出るか予測できない。お前は父親なのだから、うまくまとめろ。私に泣きついてきても知らん。」
「相変わらずだな。」
「お互いな。いいか、あの二人の父親はお前だけだ。私では代われない。たまには会ってやれ。小夜の娘だ。」
瞳はドアを開けながらそれだけ言うと、部屋を後にした。
しんと静まりかえった部屋に、掠れた声が微かに響いた。
「・・・・わかっているさ・・・・・・」