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6 神・ルーカス

二週間ほど経って、ようやく(デウス)との面会が許された。

ただし、挨拶だけという条件付きである。

シュラインはそれでも構わなかった。

とにかく、(デウス)に会いたかった。

どのような人物なのか、自分の目で確かめたかったのだ。


案内役の男に連れられて着いたのは、塔の最上階だった。

そこは、明るいがどこか寂しい感じのするところだった。


(デウス)様、先見(さきみ)のシュラインを連れて参りました。」


案内役の男はがそう中に伝えると、しばらくして扉がそっと開いた。


「さあ、中へどうぞ。」


シュラインは促されるまま中に進もうとしたが、男が動かないのを不審に思った。


「あなたは行かれないんですか?」

「私は許しを得ていませんので、お一人でどうぞ。」


(デウス)というのは結構気難しいのだろうか、とほんの少し心配になったが、一人でということは自由に話ができるということかと自分に都合良く解釈した。

シュラインは、母の言葉をもう一度思い出し、歩を進めた。


部屋の中は薄暗く、思っていたよりもがらんとしていた。

椅子も机もなく、正面に大きな機械があるだけである。

機械と言ってもがちゃがちゃしたものではなく、コンピューター類がたくさんのコードで繋がれているように見える。

その中に埋れたかのように、一人の男がいた。


「ようこそ、シュライン君。よく来てくれたね。私が(デウス)・ルーカスだ。」


四十代半ばの、少し疲れた感じのする、一見普通の男だった。

だが、シュラインの目が捉えて離さなかったのは、彼の左目だった。

淡いブルーグレーの瞳。

それは左目全体を覆っていた。

生身のものではない。


義眼か、とシュラインは思った。

今現在は使われていない、何十年か前のそれは、見るものを威圧する何かがあった。

これが(デウス)と言われる所以か。

シュラインは、しばらく立ち竦むことしかできなかった。


「どうしたのだい? もう少しこちらに来るといい。声が聞こえにくいだろう。」


(デウス)・ルーカスの言葉で、彼はやっと元の自分を取り戻した。


「失礼をいたしました。シュラインです。どのような方かと思っておりましたが、安心いたしました。ごく普通の方でいらっしゃる。」

「そう言ってくれるのは、妻と子供たちと友だけだよ。他人から言われたのは何十年ぶりだろう。気に入ったよ。君の都合のつく限りで構わない。力になっておくれ。」


にこやかに言うその瞳は、心からの笑みを見せた。


さすがだな、とシュラインは思った。

人の上に立つものはこうでなくてはならない。

『管理者』たちのような、顔だけで笑っている者は相応しくない。


「この塔に住めとおっしゃるのでなければ、できる限りのことをいたしましょう。」


シュラインも心からの笑みを送った。


「このような所に住めなどとは言えないさ。君の笑顔が気に入った。今までの先見(さきみ)たちとはまるで違う。君の目は善悪全てを切るようだ。ぜひ力になって欲しい。君の都合のいい日、週に二日ほど私のところに来て欲しい。」

「はい。喜んで参上いたします。」


心の中で、そっと(デウス)・ルーカスに会えたことを己の神に感謝するシュラインだった。

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