30 天が落ち、大地が裂けない限り
「駄目ーーーーっっ!」
テルラは声を張り上げ、ドアの前で手を広げて行く手を遮る。
「絶対、行かせないから!」
きつく『管理者たち』を睨み、意思表示をする。
クラウデオはテルラに語りかけた。
「私たちが生きていく為には、支えが必要なのですよ。それは、ルーカス様だけでは、到底適わないことなのです。『神』様が世界を支え、『女神』様が人々を支える。これで今の世の中が成り立っているのです。どうあっても、アクワ様には戻っていただかなくては。」
「アクワの後を追うことは許さないわ。」
「テルラ様。」
「叔父貴は少々甘い。説得などせずとも、『女神』様とはいえ力はただの娘。強行突破すれば良い!」
ジュッバはそう言うと、足を踏み出す。
「来ないで!!」
ジュッバは構わず歩を進めるが、たったの数歩で歩みを止めた。
いや、止めざるを得なかった。
ドアの前で立ちはだかるテルラの手に、一振りの短剣が見えたからである。
「何をされるおつもりかな、テルラ様?」
ジュッバは問う。
テルラはきつい目をしたまま、口を開いた。
「言ったでしょう。アクワの後は追わせないわ。ーーーークラウデオの言う事も分かる。だけど・・・・」
その瞬間、誰も動けなかった。
瞬きのできる者もいない。
「『女神』など、一人いれば充分でしょう!?」
そう叫んだテルラの右手が銀色に揺らめき、左手が掴んだものを鈍い音で切り落としていった。
軽い音を立て、床に落ちるもの。
それは、今までテルラの後ろで靡いていた、腰よりもずっと長い髪だった。
いつかは外に出られるようにと、想いを込めていた大切な髪が、肩につく程に短く切られていた。
「私は決して逃げたりはしない。それでいいでしょう?!」
テルラは『管理者たち』を挑むように眺める。
それにクラウデオが答えた。
「誓えますか?」
「誓えるわ。私は決して外へ逃げたりはしない。天が落ち、大地が裂けない限り。」
その言葉は、古の誓いの言葉。
クラウデオはそれを理解した。
「分かりました。テルラ様がその気なら、アクワ様の事は追わずにおきましょう。天が落ち、大地が裂けぬ限り、お誓い致しましょう。」
「叔父貴!」
「よく考えろ、ジュッバ。『女神』が二人という事は、後々つまらない争いの元になるかも知れんのだ。誓いの言葉を使った以上、今の言葉を破る事はできん。」
テルラは、じっと『管理者たち』を見つめる。
暫し動揺していた彼らは、それでも一応の納得はしたらしい。
クラウデオを先頭に、渋々ながらもルーカスの部屋を後にした。
最後の一人が出て行き、その姿が見えなくなるまで、テルラは厳しい面持ちで見ていたが、ドアが閉まるとふっとその場に倒れこんだ。
「テルラ!」
ルーカスと瞳が駆け寄った。
テルラは瞳に抱き起こされても、気を失ったままだった・・・・。
偽りの月星の輝きが、流れを選び取った娘を労わるように、その身に降り注いだ。
古の誓いの言葉は、ケルトのものだったと記憶しています。
はっきりと文言を覚えている訳ではないので、違うと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、大筋は合ってるかと思いますので、温かく見守ってくださると嬉しいです。




