28 風の先見
「禊・・・・。」
「水穂?」
アクワとシュラインは、ルーカスの部屋に連れられていた。
二人から少し離れた所で、テルラと瞳は互いを見る。
視線を合わせて微笑んでからアクワたちに目を戻した。
その先には、ルーカスが待っていた。
「時間がない。アクワは承諾したね?」
「は、はい。」
「では、シュラインだけだな。」
ルーカスはシュラインを見た。
だが、シュラインは何のことやらさっぱり分からない。
「あの、何がでしょう? 時間がないって、一体・・・・。」
シュラインはルーカスに問う。
それに対して、ルーカスは近付きながら答えた。
「単刀直入に言おう。アクワを頼みたいのだ。他の誰でもない、君に頼みたい。」
「頼むって・・・・何を仰るんですか。私たちは別に、そんな・・・・。」
見るからに動揺しているシュラインに、アクワは優しく声を掛けた。
「誤魔化せないわ。もう、分かってしまっているの。」
シュラインは驚きで声も出ない。
何がどうしてどうなって、分かってしまったのか。
「頼めるね? このまま塔にいては、アクワはきっと長くは生きられない。だが、君の側にいれば長く生きられるはずだ。これは、君の先見したことだよ、シュライン。」
「私の先見したこと?」
「君は言ったね。アクワは結婚する。やがて子を宿し、外の世界で幸せになる、と。」
「確かにそうですが、私は、誰と結婚するかまでは言っていません。」
「そう、君は言わなかった。でも、『風』は伝えてくれていたよ、君のことだと。シュライン、君は『風』に守護されているのだよね。『風』は君以上に、君の事を知っている。違うかい?」
シュラインは、あの時のことを思い出した。
そうだ。
アクワの未来について語った時、そよいだ風の意味が分からなかった。
あれは、このことだったのか。
シュラインは己の未熟さに気付いた。
自分の先見はできなくとも、代わりに『風』が先見する。
そして、母は預言した。
『お前の出現による流れの変化は、遠い未来、全ての人々を救う鍵となるでしょう』と。
シュラインは、一つ息を吐くと顔を上げた。
その顔には、もう、迷いなどなかった。




