23 聞きたいこと
「珍しいな。一人で来たのか、テルラ。」
ルーカスは、パソコンを操る手を止めて言った。
彼の前には厳しい表情のテルラが立っていた。
「お聞きしたいことがありまして。」
そう言って、じっとルーカスを見つめる。
ルーカスはいつもと違うテルラに気付いて席を立った。
「母のことか。」
「どうしてそれを!」
「そろそろだと思っていたよ。お前が気付いたら、もう一度話すつもりだった。」
ルーカスは目を細めて言った。
「もう一度って、前に教えてくれたの?!」
テルラは声を張り上げる。
全く覚えのないことだ。
いつ、どこで、教えられたのだろう。
何も分からない。
「お前たちが六つの頃だったか、寝物語に簡単に話したことがある。」
テルラははっとした。
アクワは覚えていたのだ。
父に聞かされたことを決して忘れることなく、胸の中にしまっていたのだ。
全く覚えていなかったテルラには言わず、ただ一人で抱えてきた。
一体、それは・・・・・。
「どんなことなの? お母様に何があったというの? 『救う』って一体、どういうことなの?」
ルーカスはテルラの言葉に、不思議そうに眉を寄せた。
「テルラ? どこから話を聞いてきたのだ?」
そうルーカスに言われて、テルラの顔は崩れた。
それは、まるで幼い子供のような泣き顔だった。
「テルラ。」
ルーカスの声は優しい。
今、彼は一人の父親であり、テルラはその娘だった。
「アクワがね、言ってたの。お母様を救うことまで、私にさせる訳にはいかないって。・・でも、どうして? どうして話してる相手がシュラインなのぉ?」
テルラの目からは涙が溢れて止まらない。
次から次へと、色々なことが浮かんできて考えがまとまらなくなっていた。
「テルラ、落ち着いて聞きなさい。ほら、深呼吸して。頭は空っぽにして。・・・いいね?」
ルーカスはテルラが頷くのを見て、少し間を置いてから話し始めた。
十二年前のことを。
妻であり母であるノクスの身に起きた出来事を。




