18 想い
翌日、熱の下がったアクワは、テルラに誘われ境内にいた。
昨日テルラが魅かれた、あの木の元へ連れられる。
何も知らないはずなのに、アクワはテルラのしたのと同じように、手を触れ、目を閉じ、そして息を吐いた。
「不思議。気持ちが落ち着くわ。なんだかすっきりする・・・・」
アクワの顔に赤味が差す。
いつもの青白い顔色は、その欠片もみえない。
「ね、私の言った通りでしょ、シュライン。」
テルラは得意そうにそう言った。
「はあ、確かに。」
シュラインといえば、アクワにまで効力があるとは思っていなかったので信じられなかった。
アクワの気が休まるとしたら、清水か何かだろうと思っていたのだ。
「木は大地から栄養をもらうのよ。もちろん水分もね。昨日、水の匂いがしたから、アクワにもいいと思ったの。」
テルラはにっこりと微笑む。
今度はぎこちなさも何もない。
すっかりシュラインに心を許したようだ。
ルーカスは、離れた所から三人の様子を眺め、ここに連れてきたのは正解だった、と一人頷いていた。
「今日と明日、思い切り楽しむといい。きっとこれが、最後の自由なのだから。」
ルーカスは目を細め、きつく口を結んだ。
アクワとテルラにとって、実に楽しい数日間だった。
初めて裸足で大地を踏みしめたし、いろいろな草花を見ることもできた。
作り物だけれど太陽の光を初めて直接浴びたし、周りを気にせずはしゃぎまわったりもした。
いつも以上に元気なテルラと、いつもとは別人のように動き回るアクワ。
だが、医師としての瞳の出番は最初の日だけであった。
アクワは信じられないほどの回復力を見せ、体が弱いなど微塵も感じさせない。
初めは必ず二人が見える範囲にいたルーカスも、すぐに心配無用とわかった。
ここは空気が違うのだ。
たくさんの木々が、淀んだ空気をきれいにする。
その只中に自分たちはいる。
自然の中にいる。
それだけで安心できた。
そして、アクワは自分のシュラインへの想いが何であるのか、少しだけわかった気がした。
それはどういう結果をもたらすか、深く考えもせずに・・・・・。
塔へと戻る日、シュラインは母に呼ばれた。
「何でしょう。もう行きませんと、夕方までに塔に着きませんが。」
そわそわしながらシュライン言った。
そんな息子を見据えて、プレア=フォレスタは言った。
「何か隠していますね。この母には言えませんか。」
しばらく止まったまま、シュラインは考えていた。
何をどう伝えればいいのか。
言葉は出てこない。
「すみません、母上。まだ何と言っていいのかわからないのです。隠すわけでは、決してありません。」
シュラインは真剣な目で、プレア=フォレスタに答える。
母には嘘は通じない。
じっとシュラインの目を見つめていた彼女は、瞬きをし、こう続けた。
「そうですか。いいでしょう。でも、一つだけ言わせておくれ。・・・・自分に正直に行動しなさい。」
その言葉に、シュラインは少し寂しそうに、柔らかく笑った。




