17 祀と聖
テルラとシュラインが部屋を出て行った後、残された父兄たちは、少しばかりの昔話に花を咲かせていた。
「聖くんは人が悪いのは変わらないのね。分かってたのなら、早く言えばいいのに。」
「言っても良かったのかな?」
ルーカスは、例の意地の悪そうな笑みを浮かべて、プレア=フォレスタに言った。
「いい訳ないでしょう。あの子には知られない方がいいのよ。すぐ調子に乗るんだから。」
プレア=フォレスタは少し眉を顰めて答えた。
「誰に似たのか、落ち着きもなくて・・・困っているの。」
「シュラインが? 良い子じゃないか。」
「で、二人の関係は何なんだ?」
抑揚のない声が響く。
いつまでも本題に入らない二人に、とうとう瞳が口を挟んだのだ。
さすがにルーカスも、瞳には隠し事はできない。
もっとも隠すようなことでもないのだが。
ルーカスは、ちらっとプレア=フォレスタを見てから瞳に言った。
「幼馴染、だよ。もう何十年も会ってなかったけどね。」
「この辺に住んでいたのか、お前。」
瞳は珍しく目を大きく見開いた。
今まで聞いたことのない事実だった。
「子供の頃、すぐ下の所に住んでいたんだ。引っ越してからは一度も来なかったから、祀ちゃんがまだここにいるとは思わなかったよ。」
「私は一人娘だから、この家を出ることができなかったの。巫女としての力も強かったし。今は社から出ると力が鈍るから、鳥居辺りまで出歩くのが限度ね。」
プレア=フォレスタのその言葉で、ルーカスの顔は神のそれに戻っていた。
「訊きたいことがあったのだ。いいかな?」
その声に反応し、彼女もまた巫女の顔に戻る。
「わたくしの分かることでしたら、なんなりと。」
穏やかなその顔が厳しく変わり、周りの空気も張りつめる。
ルーカスは、そっと口を開いた。
「君はシュラインにどんな預言をしたのだ。」
「大したことではありません。ただの時の流れを伝えたまでです。」
「・・・シュラインは、守護されているね。恐らく生まれた時から。それは・・・・『風』、だね?」
プレア=フォレスタの顔は一瞬硬くなり、次の瞬間、笑い崩れた。
高笑いが続き、そして、それが止んだ時には和やかな母の顔になっていた。
「隠し事はできませんわね。確かにそうですわ。あの子は風の守護を受けております。けれど、それはわたくしが施したのではなく、風自らの意思で守ってくれているのです。」
風の意思によって、守護されし者。
それが先見シュライン。
彼は自然の愛し子。
皆が忘れていく自然の、最後の希望か。
ルーカスも瞳も、改めて、本当の神の存在を感じた。




