16 大地と水の眷属
「広いのね。」
外に出たテルラは、大きく手を広げて伸びをしながら言った。
「神社ですから。」
シュラインはそう返した。
「どうして?」
「いざという時の避難場所でもあるんです。今はあまり意味はないですけどね。昔はこういった所が、いくつもあったそうです。」
「ふーん・・・」
周りを見回していたテルラは、突然一つのものに気を取られた。
ゆっくりとそれに近付いていく。
側に寄り、そっと触れた。
それは、数ある樹々の中の一本だった。
他のものと何が違う訳でもない。
少し大きいくらいだ。
けれども、テルラは迷わずその樹に向かった。
吸い寄せられるように。
テルラは、樹に手を触れたまま目を瞑る。
軽く一呼吸すると話し始めた。
「不思議ね。何だかとってもいい気持ちがする。水の匂いもするわ。すごく落ち着く・・・・。ねえ、樹ってこういうものなの?」
「いいえ。普通の人間は、そこまで感じませんよ。テルラ様だからでしょう。」
テルラは首を傾げた。
シュラインは、その姿が幼く見えて、つい微笑みを浮かべてしまう。
「テルラ様の本当の名前は『地穂』でしょう? 大地のものとは相性がいいんですよ、きっと。」
「どうして?」
「大地の恵み、という意味にも取れますからね。言葉には呪というものがあります。特に名前というのは特別なんです。その人の本質が表われているんですから。」
テルラは、分かったような分からないような顔で、シュラインを振り向いた。
「アクワ様は『水穂』。そのまま水を意味します。少し大袈裟かもしれませんが、お二人は、大地と水の眷属なのです。」
テルラは大きな瞳でシュラインを見つめ、それから、触れたままの樹に目を移した。
じっと見つめ・・・・その目は何かを捉えた。
微かに姿が見えた。
穏やかな女の顔が、ゆったりと笑った気がした。
それは、自分の姿にも似て、けれども違うものだ。
「そういうこと、なんだ・・・・」
テルラは安心した顔で、樹から手を離した。
シュラインは、ただ静かにその様子を見守っていた・・・・・。




