9 出会い
『第二の東京』の中心にそびえ立つ『塔』に、一人の男が訪れた。
シュラインである。
初めて『神』・ルーカスに呼び出されたのだ。
今までは約束の通り、シュラインの都合のいい時を選んで自由に来ていたが、今回は指定があった。
必ず来るように、と。
何かあったのか、といろいろ考えてみたが不審なことは何もない。
だが、彼に仕えると決めた以上、断ることはできなかった。
シュラインはいつものように、『神』の部屋に続くエレベーターに乗り込んだ。
が、それは意外な階で止まってしまった。
「この階は確か・・・」
確認するために頭を出したその時、何かが思いっきりぶつかった。
「!・・・ったー・・・なんだぁ?」
「何だとは何よっ! 失礼ね! ちゃんと前を見なさい!」
目の前に立っているのは、大きな瞳に長い髪の元気そうな娘だった。
鼻が赤く染まっており、よく見ると目にはうっすらと涙が滲んでいる。
ああ、鼻をぶつけたんだな、と冷静に思いながら、シュラインは娘の言い分に腹が立った。
「前を見ろも何も、こっちはエレベーターから顔を出したところだ。突っ込んできたのはそっちだろう? 気を付けるべきなのは、廊下を走っていただろう君の方だ。」
「なんですってーっ? 大体、あなた何者よ。ここは一般人の来るようなところじゃないわ。さっさとお帰りなさい!」
娘は引き下がる気配を見せず、シュラインも引こうとはしない。
「そっちこそいい年をして自分の不注意も謝れないのか? 一体どういう育ち方をしてるんだ。」
「言ったわね?!」
「もうおやめなさい、テルラ。」
収拾のつかなくなり始めたところに、厳しくそして優しい声が入った。
シュラインが声の方を向くと、そこには美しく穏やかな、髪の長い娘が立っていた。
「失礼なのはテルラ、あなたです。」
その言葉にすっかり大人しくなった娘、テルラから小さな声が聞こえた。
「・・・・ごめんなさい・・・・」
「いや・・こっちこそ・・・・ごめん・・」
続いてシュラインも謝る。
少し頭に血が上りすぎたと。
互いに謝る二人を見てにっこりと微笑むと、穏やかな雰囲気の娘は言った。
「申し遅れました。私は、第二の東京の象徴にして、この塔の主、そして民人に神と呼ばれしルーカスの娘、水穂と申します。アクワと呼ばれております。」
「同じく、ルーカスの娘、地穂よ。テルラと呼ばれているわ。」




