足跡1
足跡
四月。桜が舞い、様々な出会いがある季節。
四月 のイベントと言えば・・・入学式だろう。桜が綺麗に咲き誇ってる中での入学式、これもまた風情というものだ。
そして、ここ桐ヶ丘高校も今日が入学式・・・どしゃ降りの雨の中で行わている。
「ーーーから皆さんはーーー生徒一人一人ーーーーて、学校せいかーーーって下さい。」
・・・ここまで酷い式があるだろうか。先程から鳴り響く轟音と豪雨が体育館に降り注ぐ音によって耳が侵されてしまって、式の言葉がほぼ聞こえない。
おそらく時間的に苦労して考えたのであろうスピーチが台無しになった桐ヶ丘高校の校長が壇から降りトボトボと見るからに哀愁を漂わせながら自分の席に向かっている。
そんな空気だからか、晴れ舞台のために着飾って来た保護者や俺を含める入学生は拍手をするべきなのかどうか戸惑ってしまった。
ーーまぁ式も後半(だと思う)
おそらく、この後はクラス発表があり各々のクラスに行くという感じであろう。
そう考えると少し気が楽になり、俺は椅子に深く腰掛けた。
「次はーーーの水無瀬果林さんにーーー。」
が、
聞き覚えがある名前を聞き、思わず椅子から転げ落ちそうになってしまう。
「皆さんはじめまして。新入生代表を務めーーー水無瀬果林とーーー私はこれから始まる高校ーーーを存分に楽しみたいーーーーーー
・・・」
水無瀬が周りを見渡しながら話す度にセミロングの縛っていない黒髪が揺れる。
頑張って話しても聞こえないとわかっているがはずだが、水無瀬は凛とした姿で堂々とスピーチを進めている。
最後に会った時とあまりに変わらない姿に、俺は彼女が新入生代表に選ばれたことに納得してしまった。
その後式が終わると、「クラス発表は一階の下駄箱に面してる廊下の壁に貼ってある紙を見るように。」と連絡を受けた。
まだ入学初日のためか、一人で戻る生徒がちらほらと見える。
恥ずかしいというわけではないが
都合がいいので俺もその人の波に乗じてクラスに向かった。
体育館から下駄箱までは一階の渡り廊下を使わなければならない。
その途中、何故か雨が当たってしまう場所があり、生徒達は皆悲鳴をあげていた。
しかし、その中にふと目についた奴がいた。
そいつは一人で雨など気にしないように歩いている。
それだけなら他にもいるがそいつはデカかった。
人の波の中で一人だけ身長が飛びぬけていて、短く切った黒髪が目立っている。
驚いた。
この学校で知り合いなんて居ないと思っていたがすでに二人いる。
部活入ったら・・・面白そうだな。
「ッ!。」
自然にそんな思考をしてしまった自分に嫌気が差す。
そして思わず肘をさすってしまった。
体にドロドロとした黒い感情が芽生えていく。
後悔、羞恥、屈辱。
様々な感情が混ざっているのだろうが、よろしくない感情であるのは確かであろう。
あれこれと考えているうちにクラス発表の場所にきていたようだ。
前から交流があった友人と同じクラスになって喜んでいる奴と誰が誰だかわかっていないのか特に反応がない奴でその場は二極化になっていた。
俺の名前を探すと三組のようだ。
全部で七クラスだから真ん中ぐらいかと、くだらないことを考えながら他のクラスメイトの名を眺めていると先程の知り合いを二人とも見つけてた。
同じクラスになることが嬉しい半分、うまく接せられるか不安な気持ちが半分。ちょっと複雑な心情であった。
教室は一階の端のほうだった。
どうやら三組までは一階、それ以降は二階らしい。
教室のドアを開けると既に何人かでグループを作っている。
よくもまぁ、そんなに早くグループを作れるものだと若干感心しながら自分の席を確認した。
自分の席に座ると、まだ少しHRの時間には余裕があるので持ってきていた本を読みはじめた。
しばらくして、本から顔をあげるとだいぶ人が集まってきていた。
まだ、時間があることを確認してからもう一度本を読もうかと思った時、俺に大きな影が覆った。
「久し振りだな弥生。中三の時から連絡がなくて心配だったが息災であったようで良かったよ」
俺はゆっくりと顔をあげる。
座っている俺からだとかなり首の角度が上がってしまう。
声の発生源は予想通り井上だった。
「やぁ、康太久し振りだね。連絡についてはすまなかったよ、ちょっと家の用事でゴタゴタしててね。」
約一年振りの友人との再会に思わず頬が緩んだが
「そうか、スクールの皆も弥生のことを心配していたぞ。
一回顔出したらあいつらも喜ぶと思うぞ」
・・・緩めた顔を顰めてしまった。
中2の頃の充実した日々が思い出すと同時に人生で最悪の日のこともおもいだしてしまったからだろう。
そんな俺の様子に気づいたのか
「無理にとは言わないさ。お前にも事情があるのだろうからな。」
と井上は付け加えた。
・・・やはりこいつはすごいと思う。
井上はいつもこうだった。
自分に厳しいが他人への気配りは人の何倍もできる。
背が高くガタイがいいこともあったが、それよりも気さくで面倒見がいいという性格面で皆から慕われていた。
そんな康太に若干劣等感を抱いている自分が恥ずかしくて仕方なかった。
「・・・あぁ、悪いな康太。
また気を遣わせて」
「気にするな、・・担任が来たようだから俺は席に戻るとするよ。何かあったらまた連絡してくれ。連絡先は変わってないからな。」
そう言い残すと井上は廊下に面してる席列の前から二番目の席に座った。
余談だが、井上の後ろの席の子に少し同情してしまった。
担任がクラスの騒がしさを収め終わると自己紹介が始まった。
「河原中出身、井上康太です。
好き嫌いはありません。特技はテニス。これから一年間宜しく」
井上は相変わらず当たり障りがない挨拶だった。他のメンバーも特出するものはなかったなと俺は自分のことを棚にあげてそう考えていた。
男子の挨拶が終わると次は女子の挨拶が始まった。
クラスの男子が数人そわそわしはじめたが・・・何を期待してるのだろうか。
女子の方もあまり男子と変わりない普通のスピーチが続く。
そのスピーチを聞いて男子が「あの子かわいいね」などとずっと言ってたのは割愛する。
そんな中、見覚えのある女子がいた。
「柳瀬中出身の木下朱里です。
特技はテニス。あまり喋るの得意ではないので口数が少ないのは気にしないで下さい。」
自分の欠点をあげるとは少々珍しいスピーチだ。
黒と言うより紺のような色をした髪を肩あたりで切りそろえていて、目つきは鋭く一見クールなように見える。
そんな彼女を見ながら俺は必死に記憶を探っていたが、どうやらいつの間にか水無瀬の番がきていたようだ。
「柳瀬中出身の水無瀬果林です。
特技はテニス。皆とは一日も早く仲良くなりたいので是非話かけて下さい。」
相変わらず優等生っぽい感じだな。
そんな姿を見てか、男子から黄色い声が上がっていた。
自己紹介が終わると少々配布物を配られて解散になった。
康太もそうだが大半の人は入学式での晴れ姿で写真を撮るなどとすることが多く、解散早々に帰ってしまった。
することもないし、家に祖父母を待たせていたため、俺も帰ろうとした所
「弥生、旧友に挨拶なしとは冷たくなったわね。」
声をかけられた。
ノロノロと物語も執筆スピードも進めていきます。
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