No,8 ショーの終わり
ロバートはふと顔を上げると、先程から見当たらないシェリーを、大声で呼ぶ。
「シェリー! どーこだー! シェーりーィー!」
「ここにっ・・・・・・いるわよっ!」
ロバートの声に反応して、金持ち連中の中から、必死にシェリーが出てくる。
「あれ? ずっとそっちにいたんだ。どかなかったの?」
「ロバートが一人でさっさと行っちゃうからでしょっ!!」
「あ、ちゃんと言ったほうが良かった?」
「とうぜんでしょっ!!」
少しキレ気味のシェリーを無視して、ポケットから100Cを出す。
「さっき、リオーネって子から貰った。シェリーにあげるよ」
ロバートは優しく笑って、それをシェリーに渡す。
すると、シェリーは小さくため息をつく。
「リオーネって子に免じて、はぐらかされてあげるわよ、もう・・・・・・」
怒っていたようだが、今はかすかに笑っている。
「おーい! ミスター・ロバート!」
金持ち連中の一人が、ロバートを呼ぶ。
「はい! なんでしょ・・・・・・ぶっ!!」
ロバートが返事をしながら振り返る。
すると、金持ち連中の一人が、ロバートの顔に思いっきり札束を投げつける。
「なっ・・・・・・何するんですかぁ!」
「何って、金だよ! あの帽子はもういっぱいだぞ!」
人の隙間から、札束に埋もれた帽子が見える。
「わ〜お!!」
「すっごぉ〜い!! もう50000Cどころじゃないわね!!」
「かる〜く50000000Cぐらいはいってるね」
「新しい入れ物ある?」
「用意してないよ、だって、いつも10000Cから50000Cとかだったんだよ? 5000000Cはちょっと・・・・・・」
「え〜!? じゃあ、もって帰るときどうするの!?」
ロバートは少し考え込む。
「んー・・・・・・。じゃあ、いざという時の麻袋!!」
「ああ! あのときの!!」
「うん、シェリーが尾けてきてた時に使ったやつ!」
「・・・・・・気付いてたの?」
「当たり前だよ。モノスゴク視線感じてたし、たまに姿見えてた」
ロバートは、さも当然のように言う。
「一度、話し掛けてくれたら良かったのにー!!」
「メンドクサイ。それに、こんなあからさまに俺の事調べているんだから、わざわざこちらから出向くなんて事はしない。第一、一度あっただけのあまり信用できまい人なんかには、俺はまず話し掛けない。俺をつけてきてた理由も知らなかったしね」
「ふ〜ん・・・・・・。そういうもの?」
「ま、俺はだからね」
そう言ってロバートは、人の群れのほうを見る。
「ん〜・・・・・・。まだ時間かかるかな」
「そりゃそううでしょ、あんなにいっぱいいるんだもん」
「あ、そういえばさっきのショーの事説明してなかったっけ、とりあえず聞いておく?」
「当然よ! 私だって、気になるの!!」
「わかった、聞きたいなら教えるよ。・・・・・・帰りにね」
「やった〜! ありがとロバー・・・・・・、帰り、ですと?」
「うん、帰りにね」
ロバートは少し嬉しそうな顔で、軽くウインクをする。
「ダメじゃない・・・よね?」
ロバートは背中の黒くて可愛い羽をパタパタさせながら、上目使いで尋ねる。
元々整った顔立ちで少し髪の長いロバートが、瞳を潤ませて見つめてくる。
それが、シェリーにとっての『ストライク』であり、ロバートにとっての武器でもある。
「大丈夫、ダメじゃないよ!!」
照れたように、そして嬉しそうに返事をする。
「本当?」
「うん! 本当!!」
「そりゃどうもー。お、人減ってきたなー。そろそろ退散するか」
急にロバートが事務的に行動し始める。
「・・・・・・!?」
シェリーは唖然とする。
ロバートはシェリーに背を向け、静かに、ニヤリと笑っていた。