なんばー58 名乗る子
「・・・・・・」
「・・・・・・」
外から鍵を掛けられたドアの前、数十分経っても、クラウドと架那は跪いたまま動かなかった。人見知りが激し過ぎる為、どちらも話し掛ける事が出来ない。
頭痛がする程躊躇った末、クラウドは左隣に居る架那に漸く話し掛けた。
「あっ・・・あの・・・・・・!」
「は、はい!」
必死の一言に、と言うよりは声を掛けられた事自体に驚いた架那は、正座したままびくりと震えてクラウドから10cm程離れる。だが、絶望したような表情で泣きそうになるクラウドに気付くと、わっと縋るように騒ぎ出した。
「ごごごごめんなさい! 別に嫌いじゃないんです嫌いにならないで下さいぃい〜!」
「うわわ別に怒ってないですごめんなさいっ・・・・・・!」
突然の事に悲鳴を上げそうになるも、クラウドは必死にその身を留まらせて否定の意を伝える。
すると、何も話す事がなくなったのと気恥ずかしさで、今度は向かい合ったまま黙り込んでしまった。
「えぇと・・・・・・架那、さん・・・・・・ですよね・・・・・・?」
「は、はい!」
「僕は・・・その、クラウド・セルフィードですっ、よろしく・・・お願いしますっ!」
グレイの時には途中で遮られた自己紹介を、クラウドは自分が知っている最低限を言って勢い良く頭を下げた。
「セルフィード・・・・・・? ・・・セルフィード・・・セルフィー・・・・・・」
「・・・? あの・・・・・・?」
「え、あ、よろしくお願いします!」
名乗ったクラウドの名に思案顔になるが、遠慮がちな声で我に返り、ぺこりと頭を下げた。
そして顔を上げると顎に手を当てて暫く何か考え込み、ぱっと明るい表情で提案する。
「クラウド様、敬語は止めて下さい。・・・架那、と・・・呼び捨てにしてくれても大丈夫です。私達、・・・多分、同い年くらいなので!」
「え・・・ぃ、いい・・・の・・・・・・? ・・・その・・・・・・」
「架那、です」
「・・・架、那・・・・・・」
「はいっ!」
恥ずかしそうにボソリと呟かれた自分の名に、架那は両手を合わせて笑顔になる。
少女らしい、無垢な笑み。
クラウドは更に頬を赤く染めて、それでも条件とでも言うように声を荒げた。
「でっ、でも! ・・・架那・・・も、様なんて止めてよ! なんか・・・僕が呼ばれてるんじゃないみたいだよ!」
「で、でも私は手伝いの身で、クラウド様はあのNO.0118様が直々に預かると言った方」ですし・・・・・・っ!」
「それは一時的な事! 明日か明後日には・・・僕、牢部屋って所に行くみたいだし・・・・・・」
自分で出した1つの言葉に、クラウドは感情を沈ませるように語尾を小さくしていった。
そう、グレイの部屋から出た後は恐らく捕えられた者だけに与えられるだろう孤独の牢部屋。クラウドのない右目の衛生の為、設備を整えるらしいが。想像は出来ない。
「だから・・・ね、クラウドって呼んで・・・・・・?」
首を傾げて言うと架那は苦笑混じりに立ち上がり、汚れても目立たない黒の、ワンピースの裾を摘んで軽やかに一礼して見せた。
「それじゃあ・・・改めて。よろしくね、クラウド!」
身に付けている衣服は質素な物だが、その晴れやかな笑顔はやはり無垢な少女のもの。
数瞬の間ぼんやりと見惚れていたが、やがてそんな自分に気付きブブブンと音がする程早く頭を振って正気を取り戻す。
そして取り繕うようにへらりと笑うと、不思議そうな表情でクラウドの顔を覗き込んでいた架那も困ったようにはにかんだ。