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なんばー57  見送る子

「・・・良いですか、架那さん、クラウドさん。もうこの際、部屋の中の物が汚れていようが壊れていようが私は気にしない事にしました。いざという時は隣の部屋に掃除ついでに泊まってしまえば良いんですからねハハハハハ。一応あの人の為の部屋なんですがねハハハハハ。・・・ですが!!」

 一部瓦礫と化したキッチン。ほとんどの高級そうな食器はグレイは任務で相手をした人間から貰った物で、思い入れはないがいつか質屋にでも流そうと思っていた物。

 高級品に興味はなかったが、入る筈だった金がないのは少々悲しい。

 そして、絨毯。洗剤や他の液体のぬめりのせいで完全に拭い切る事は出来ず、かといってそこを踏み進めばまたじわりと染み出してきて腹が立つ。

 その全ての汚染や破壊状況を理解した上でグレイは一応許し、新たな禁止令を突き付けた。

「ここのクローゼット!! ここだけは絶・・・・・・っ対に開けないで下さい!! 他は何しようがどうぞもう構いませんよ」

 深い青色の瞳を血走らせて大きなクローゼットを叩いて見せる。今は降ろされている流れるような白髪が揺らめきそうな程、纏う怒りのオーラはドス黒い。

 肩甲骨辺りまでの黒髪をおさげに結い、質素なワンピースを身に着けた少女・・・架那は、涙を浮かべながら地に頭を付けていた。

「すっ、すみ・・・ませっ・・・・・・!」

 既に泣き顔は悲惨なもので、自主的にしてしまったらしい土下座にも多少罪悪感を覚えてしまう。

「ごっ・・・ごめっ・・・なさいぃいー・・・・・・!! グレイさ・・・・・・っ!!」

 その横で並んで泣きべそをかいているクラウドも、架那の姿を真似てだろう、ぎこちない土下座の体勢になっていた。

「別に見たら殺すとか刻むとは言いませんが、万が一、少しでも汚したら晩御飯抜きにしますから」

「ぼ・・・僕、3日くらいなら水だけでも平気ですけど・・・・・・」

「No.0118様・・・わ、私も・・・・・・です」

「じゃあ一晩冷蔵庫・・・いや、冷凍庫に閉じ込めましょうか?」

「「開けませんっ!!」」

「良い返事ですね」

 珍しく覇気のある返事にグレイは怒りを消し、久々のような気がする優しげな微笑を2人に見せた。

 それからはっとしたように腕時計の針を確認し、慌てて出かける準備を始める。

 クローゼットから指定の服、裾は長いが体のラインが美しく出る赤と黒で鮮やかに彩られたドレスを適当な紙袋に入れ、他、化粧品の入ったポーチ等を持ち始める。

「あー、えーと・・・私が帰ってくるのは夜10時後になりますが、架那さんはこの部屋に泊まるんですか?」

 軽い上着を羽織りながら尋ねると、遠慮混じりの声で架那は言った。

「な・・・No.0118様のお部屋で2日お手伝いって言われただけなので・・・良く分かりませんが、・・・その、お部屋に居ておくのだと思います。・・・・・・あっ、いえ! 邪魔にならないよう外で・・・・・・っ!」

「馬鹿な事言わないで下さい。寝る時はクラウドさんと一緒に寝室のベッドかそこのソファでどうぞ。ソファはともかく、ベッドは2人くらい平気で寝転がれますので」

「ベッ・・・・・・!? あ、ありがとうございます、No.0118様!」

 架那は一瞬横にいるクラウドに顔を向け頬を赤らめるが、直ぐにグレイに向き直り、土下座の体勢のまま礼を言った。

 その様子をチラリと見やると、グレイは再びクローゼットを開けて髪飾りを選びながらつらつらと小さく一人言を洩らす。

「・・・私だって他のオリジナルナンバー達と同じ人間・・・・・・。土下座なんて・・・・・・。変わりはないんですよー・・・と・・・・・・」

 そして1つ、小振りな薔薇があしらわれた髪飾りを取り出し、先程ドレスを入れた紙袋の持ち手に留めて玄関に立つ。

 耳に届いたグレイの声に脅える架那は、その意を理解するとギュッと瞳を閉じて瞼を震わせた。

 始め戸惑ったクラウドだが、突然降ってきた手に驚いてびくりと身を竦ませる。

 それからばふっという柔らかな音。直感で、グレイの手だと直ぐに気付いた。

「ひゃっ・・・・・・!」

 クラウドからは見えないが、小さなその声から察するに架那も同じ状況なのだろう。

 荷物を両手に下げている為クラウドや架那にその手は重かったしグレイも分かっていたが、構わずにグシャグシャと髪を掻き混ぜてやる。

「な、No.0118様!?」

「わっ・・・グレ・・・さ・・・・・・!?」

「お2人」

 困惑する2人に制止の声を投げ掛けると、ぴたりと黙り込んだ。そんな従順な様子に可笑しさで笑みを溢しながら、その柔らかな頬をそっと撫でてやった。

「私が帰るまで寝ていても起きていても構いませんが、喧嘩はしないで下さいね。私が苛付きますので。無駄にイチャついてても冷凍庫ですから」

 留守番する子供に預けるような内容ではないが、申し訳程度で告げられた戒めの言葉。それに反応した2人は顔を見合わせ、可愛らしく赤く染まった頬で俯いた。

 同じ十代でありながらその後半をいくグレイは、そんな初々しい様子を白けた笑みで眺める。

 グレイ自身、15歳くらいの頃には既に長い白髪をなびかせて多々ある任務を駆け回っていた為、今目の前で繰り広げられている光景など体験した事がなかった。

 もちろんオリジナルナンバーで女性はいるし、中でも1人、特に仲が良いと言うか腐れ縁の者は居るが・・・・・・。

 そこまで考えて、ふとグレイは立ち上がった。子供2人居る中で着替えなどの準備が出来ない為、今からその女性の部屋を訪ねなければならないのだ。

 突然手を離された2人は驚くが、ドアノブに手を掛けたその姿を見て納得したように頷いた。

「いってらっしゃい・・・です・・・・・・」

「な、No.0118様、お気を付けて!」

 健気にも告げられる見送りの言葉に苦笑し、グレイはなれないながらもまた言葉を返した。

「・・・いって、きます」






「あぁあっ! 予定より時間が・・・・・・!!」

 長く静かな廊下を慌しく過ぎる音。

 グレイは腕時計を確認しながら、つかつかと1つの部屋まで歩いていく。

 時間がない為走った方が良いのだが、任務の前に少しでも疲れるような事はしたくない。既にクラウドや架那で疲れているので、尚更だ。

 グレイは抱えた洗面用具をチラリと見やり、唸った。

「シャワーまで貸してくれるかな・・・・・・ロゼ」

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