なんばー56 水が好きな子
暫くしてクラウドも朝食を食べ終え、グレイはその分の皿も洗っていた。
その真横には水が跳ねるのも気にせずに手元を眺めるクラウドがいた。何が楽しいのか、その表情は柔らかなもの。
「・・・クラウドさん」
「・・・・・・?」
小さな声で名前を呼べば、どうかしたのと問うように見上げてきた。
「そこで何をしているんですか? 濡れますよ」
「なんか・・・水って、良いですよね〜・・・・・・。冷たいし綺麗だし・・・・・・」
「答えになってませんよ」
「ご、ごめんなさい・・・・・・っ」
ぼんやりと呟いたかと思えば、言葉1つで慌てた様子を見せる。他愛ない会話で、和気藹々とまではいかずとも和やかな雰囲気だった。
そこに、来客の存在を知らせる優しげなオルゴール音が控えめに響いた。
初めての事にやはり驚いて硬直してしまったクラウドに皿洗いの途中の食器を触らぬよう告げ、グレイは手を拭いて部屋のドアまで行った。その横には、外にいるらしい者の映像があった。
「誰ですか?」
『わっ・・・私・・・お手伝いで来た・・・あ、逢沢 架那ですっ』
届いたのは、可愛らしい女の子の声。
グレイは返事をするのも忘れ、神速の速さでバッと勢い良く振り返った。その額には冷や汗。
突然振り返ったグレイに心底驚いたのか脅えたようにキッチンへと隠れ、勢いで転んだのだろう、棚か何かが倒れる音と小さな悲鳴が聞こえる。
尚も続けられる、女の子の言葉。
『あ・・・あの・・・・・・? っNo.0118様・・・・・・? 中で何が・・・・・・っあ!』
悲鳴と共に聞こえた、篭もるような鈍い音と水の跳ねる音。
『っキャ――!! ・・・バ、バケツが水が洗剤がっ・・・・・・! すっ、すみませんNo.0118様っ!』
水?
下を向いて見れば、恐らくドアの向こうから染み出しているらしい液体が靴の底を濡らしていた。上等な絨毯にも液体は広がっている。
酷い、頭痛がした。