なんばー51 転ぶ子
足を何か(何もない所やゴミ箱、色々な用具など)に引っ掛けた回数、13回。
グレイにぶつかった回数、足を蹴った回数、57回。
他の通行人にぶつかった回数、22回。
前のめりに転んだ回数、8回。
計、100回。
『・・・ガッ』
「っ!!」
べシャッ。
自分の両手首の縄を持って前を歩くグレイの足に引っ掛かり体勢を崩したクラウドは、声すら上げずに勢い良く床に倒れ込む。
後ろで聞こえた妙な音にグレイは嫌々振り返ると、予想通りのその光景に苦い顔でため息を吐く。
「あなたは・・・どうしてそう転ぶんですか。声を上げるなりなんなりしてくれないと、私も対応できないんですが・・・・・・」
「・・・ごめんなさい・・・・・・」
クラウドは今にも泣き出しそうな顔でしょんぼりとうなだれ、床に両手両膝を付いた体をグレイに起こしてもらう。
「ほら、もう少しで私の部屋です。足元、気を付けて下さいね」
「はっ、はい!」
クラウドのペースにあわせて、ゆっくりと歩く。
そんなグレイにつられて、遅れぬようピタリとその後ろについて行くクラウドは、申し訳なさでまたも俯く。
そんなクラウドをチラリと盗み見ながら、グレイはこっそりとため息を吐いた。
(・・・ずっと下向いてて、なんで転ぶ・・・・・・)
各自自分の考えに耽っていると、やがて『No,0118』と記された、無機質な冷たいドアの前に辿り着いた。
その表記の下には、子供が書いたような字で『Glay』と記された紙切れが貼られていた。
「さ、こちらが私の部屋です」
そう告げて鍵を取り出すグレイの後ろから背伸びで前方の様子を窺い、邪魔にならぬようそっと尋ねる。
「『Glay』・・・? あの、グレイさんっていうんですか・・・・・・?」
「? ・・・ああ、これですね。はい、フルネームでは、グレイ・フレアスタンといいます。綴りは、Glay flarestanです」
「・・・・・・」
「しばらく貴方を預かるんです、私の名前を知らないと、不便でしょう?」
始めは知らなくてもいいと言っていたはずの自分の名前をスラすらと告げるグレイにクラウドが呆けていると、クスリと笑んだグレイがその理由を並べた。
それにあわせて、クラウドも口を開く。
「あっ、あの! ・・・僕の名前は・・・」
「知っていますよ、クラウド・セルフィードでしょう?」
『ガチャッ』
鍵の束からようやく自室の鍵を探し出し、複雑な形をしたそれでロックを外した。
「中、入りましょうか」
鍵を仕舞い、クラウドの縄を持って部屋へ入る。
それに引かれて、自然と歩を進めていた。
ふと部屋の中を見渡せば、まず目に入るのは豪華な装飾。広い部屋の中は整然と片付けられており、各隅には高級そうな陶芸品が所狭しと並べられている。
天井を見上げてみれば、灯りを灯していなくても宝石のように輝くシャンデリア。
クラウドは夢にまで見て憧れていた理想の部屋に、夢心地。
更にその奥を見ようと、無意識に歩を進めていた。
「クラウドさん、そこは段差があるので気を付け・・・」
ひょいっと小さな段差を跨いでグレイは振り返る。
だが、案の定。
『ガッ』
「っ!!」
ぼんやりと奥を眺めていたはずのクラウドの視界は反転し、今まで何度感じたかも分からない衝撃を覚悟してギュッと目を瞑る。
だが、クラウドの体に訪れたのは、体に響くような痛みではなく、何かに包まれるような柔らかな感触。
「・・・っとにもう、貴方は・・・・・・!」
恐る恐る目を開けば、自分の体の下で仰向けに倒れ、苦しそうに咳をするグレイが目に入る。
頭の後ろに当てられている柔らかいものは、恐らくグレイの手だろう。
クラウドは自分をかばってくれたのだと悟ると、謝罪の言葉を口にしながら慌ててグレイの上から退こうとする。
「ごっごめんなさい!! い、今すぐ退くので・・・・・・」
「っ痛! ちょっとクラウドさん! 貴方の肘がみぞおちに・・・・・・って痛たたたた! ・・・っう、動かないで下さい!!」
体勢を整えようと付いた肘が偶然グレイのみぞおちに沈んでしまい慌てて引っ込めるが、次はクラウドの膝がグレイの太腿にめり込んだ。
「っ!? クっ・・・クラウドさんっ・・・・・!! あっ、足、貴方の足が・・・・・・っ!!」
「え? ・・・あっ・・・ごめんなさいぃい〜・・・・・・!!」
「いぃい痛いですって――!!」