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なんばー47  任務、遂行

 言い終わると、ミリアはジノンに伸し掛けていた体を退けて立ち上がり、グチュッ・・・と低い水音をたてて腿の穴からヒールを引き抜く。

「ぐっ・・・ぅう・・・・・・!!」

 強烈な痛みに声を噛み殺しているジノンを尻目に、ミリアは自信のバッグから、最初から電源の入っていた通信機を取り出して口元に当てる。

「こちらNo,0118、話の詳細は聞き取れましたか?」

『ああ、充分だよNo,0118。要らん者は全員排除して出来るだけ早く戻ってきてくれ、他の任務も新しく入った』

「はい、分かりました。ギル・ゴードとアンネ・モアの始末は、そちらに頼んでもよろしいでしょうか? 私はレッド・テンの極秘調査班に行かなければならないので」

『ああ、それくらいならこちらで何とでもなる』

 通信機と会話をしているミリアの背後で、ジノンは血の止まらない腿の傷口を押さえながら、先程見リアに遠くへ弾かれた自信の通信機を取ろうと床を這い回っていた。

 ミリアが抉った傷口はグチャグチャに荒れ、脳髄にまで響く痛みは気が遠のく程。

 あと1m、あと80cm、あと50cmで、通信機に手が届く。

(もう少しっ・・・! もう少しで・・・っ!!)

「ありがとうございます、博士。それではまた任務終わった時に・・・ああ、そういえば・・・」

『ガッ・・・』

 呟いたミリアの声に続いたのは、通信機まであと5cmと伸ばされたジノンの手を、硬いヒールが貫く音。

「うぐあっ・・・ぁあぁあぁっ!!」

「博士、今回の主要ターゲットのジノン・オールウェディーとその家族は・・・どうしますか?」

 先程まで飲んでいたワインの酔いが回ったのか、ほんのりと頬を染めて笑みを浮かべるミリア。

 その手には銀色に近い透明の、小振りなはさみが握られていた。

『家族は知っているかは分からないが・・・・・・。家庭で自分の仕事の経過なども話しているかもしれないな、いつも通り、全員殺しておいてくれ』

 ニタリと歪められたミリアの美しい顔。

「分かりました。それでは、通信を切ります」

『ああ、手強い奴はいないだろうが、くれぐれも気を付けてくれ』

「はい」

 言い終わると、ブツリと通信機の電源を切った。

「・・・と、いう事なので・・・それでは失礼して・・・・・・」

 ミリアは手の甲に突き刺したヒールに体重をかけて座り込み、ジノンの頬にそっと触れる。

「や・・・やめてくれえ・・・・・・!! 私の家族などはどうなってもいい!! だから、私だけは・・・・・・!! かっ、金ならいくらでもあるぞ!?」

「残念ですが・・・・・・」

「う・・・そだ・・・・・・!!」

「金なら、1度の任務で貴方の全財産じゃ足りない程いただいているので、結構です。・・・さようなら、おバカさん・・・・・・」

 赤く染まった頬、楽しげに細められた青い瞳、薄い唇に引かれたルージュ。

 美しいその顔に貼り付けられた笑みの垣間に、ジノンは狂気を見た。

「・・・・・・ぁ・・・・・・ぁあ・・・・・・」

 恐怖に、声も出ない。

 ミリアはジノンの頬に触れていた手をその形を確かめるようになぞらせ、目の前にちらつかせていた透明のガラスのはさみを、ヒタリと刃先を目に向けて頬に当てる。

「うあぁあ、わぁあああああぁあぁああああああぁあ!!」

 そうしてネオン輝く町の遥か上空、1人の男性の断末魔が響き、やがて欠けた月が見守る中に静かに風に掻き消された。




「・・・こちらNo,0118、博士、聞こえますか?」

『ああ、聞こえている。任務は終わったのか?』

「はい、極秘調査班の場所を特定するのに少々時間がかかりましたが、無事終わりました。今からそちらに戻ります、迎えをよこして下さい。ついでに、服の着替えも持ってこさせて下さい」

『分かった。時間がもう少ない、途中まで走ってくれ、迎えの車に会うだろう』

「はい。・・・そういえば博士、あのガラス製のは金属探知機にも引っかからないので、とても便利でした。ですがはさみは少々使いにくいので、次からはガラス製のナイフをお願いします」

『ナイフなら、今はまだ開発中だがそのうち出来るだろう。何でも、ガラスのままで刃を鋭利にするのはなかなか難しいらしい』

「そうですか。・・・それでは」

『ああ、急いで帰って来てくれ』

 既に肉塊と化した多大な数の死体の中、ミリアは浴びた返り血を拭いながら通信を切った。

任務編、終わり。

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